『銭湯って危険だよね?』




「銀ちゃん、大変あるね!お風呂が壊れたあるね!」  

宇宙一の怪力一族である神楽が、ジャンプを読むという、至福の時間を邪魔してきたのであった。

「…いつつつ…」  

無防備であった俺の懐へ、遠慮無しにダイブしてきた神楽を受け止めることもできず、
そのまま背後の壁へまで突き飛ばされてしまった俺は、一番最初にぶつかりダメージの大きい頭をさすりながら、
かろうじて手放さなかった意識を目の前の神楽の方へと向ける努力をする。

「おい、神楽、もうちょっと手加減しないと、お風呂じゃなくて、俺が壊れちゃうでしょうが!」
 
俺の胸元にぐりぐりと顔を押しつけ、涙と鼻水をたっぷりと擦りつけてきている神楽へと言ってやった。

「だって、だって銀ちゃん!私が悪いんじゃないあるよ!蛇口を捻ったら、スポッと抜けたから、なんとか元に戻そうとしたら、
壁にヒビが入ってきて、あげくの果てに見晴らしの良い露天風呂状態になっちゃったんだよ!」  

…それって、どう考えても神楽ちゃんの怪力のせいじゃなくて?  
そう言いたいが、それを言うと俺の方までが壊されてしまいそうなので、喉まで出かかった言葉をぐっと飲み込むことしかできませんでした。


…と、いうことがあり、俺がやってきたのは大江戸銭湯である。  
銭湯に来るのは久し振りで、ちょっと緊張ぎみでもある。  
何故か少し前に新撰組副長を名乗る男と行く先々の全てで出会い、そしてサウナでの死闘…。  
あれ以来、また偶然会ってしまうのではないだろうか?
それなら、ちょっと狭くても、自分ちの風呂の方がゆっくり入れるだろうと思っていたのだが…。
俺は公共の場を控えていたんだが…。  
これは偶然なのか、必然なのか…。  
銭湯の入り口へ入り、のれんをくぐり番頭さんへと入湯料を渡し、脱衣所へと視線を送ると、
そこにはやっぱり居たのはちょうど服を脱ごうと襟元のボタンを外そうとしている土方十四郎だった。

「げっ…」

「なっ…」  

二人同時に声を出してしまう。

「てめぇ、何でここに来た?」

「てめぇこそ、何で俺の行く先々にいちゃうわけ?」

「それはこっちの台詞だ!」

これでは、まるで少し前の再現である。
しかし、俺様だって少しは学習しているのだ。
ここで先に折れてやるのは俺様の方。
なんせ、俺は心が広いからな!

「まぁ、いいや。俺の方が後から入ってきたしな。俺は、神楽が怪力で風呂を壊しちまって、仕方なく銭湯へ来たってわけよ。お前は?」  

優しい俺様は、一歩引いてやってヤツの言う分も聞いてやることにする。  
すると、俺の方から折れてきた為か、土方の方も少し姿勢を正して答えてきた。

「沖田のやつが、俺が風呂に入っている無防備な状態の時にバズーカー砲をぶっとばして襲ってきやがったから、
新撰組の共同風呂が壊れちまって、俺の方も銭湯に世話になりにきたわけだ」  

ちょっと違うが、お互いの困ったちゃん達の暴走で、銭湯の世話になってしまったという共通点を見つけ、
なんとなく和んだ空気が二人の間に一瞬流れることとなったのだった。

「ふっ」

「ははっ」  

なんとも、おかしな話しだ。そう考えると、この土方十四郎という男もかわいそうな男だ。

「ま、今日はのんびり風呂に入って、たまには背中の流し合いっこでもして、男同士の友情ってやつを深めますかね?」  

俺としては、なんとも心の広い一言だ。

「そうだな。たまには、それも悪くないかもしれないな」  

土方の方も、笑みを浮かべ、中断していた脱衣を始めるのであった。  



さて、全て裸になり、男の羞恥心を白いタオルで隠しながら、風呂へと入るのであった。  
扉を開け、むわっとした湿気を浴び、中を見渡すと先に入って行った土方が親切に桶と椅子を隣に置いて場所を取っておいてくれていた。  
まぁまぁ、親切なこった。  
こうゆう所、コイツは真面目なんだよな。  
以前から、別に悪いやつじゃないと思っている。
先に洗髪を始めている土方の隣に、親切を無駄にしては申し訳ないし、
素直に取っておいてくれたば場所へとお邪魔することにしたのだが…。  
洗髪中な為、下向きに体をかがめている為、その背中に向かって一応挨拶してやる。

「ありがとな。隣にお邪魔するぜ」  

すると、洗髪中な土方は軽くうなずくだけで返答するわけだが…。
その時の、背部の筋肉の動きが、なんとも…。
無駄な肉の無い背部。  
そして、柔らかそうな筋の動き。  
相手は男だってのに、なんとなく見とれてしまう。

「はっ!」

い、いかん、いかん!  
相手は男!  
背中が綺麗なんて、俺は全く思ってませんからね!  
と、とにかく…。
俺も体洗おう!  
急いでざっと湯をかぶり、自分の体を洗うことに集中することにしたのだが…。  
垢すりタオルに石けんをつけ、心臓から遠い場所から洗うという、先代の教えにのっとり(?)
指先から洗い始めていると、横から声がかかってくるとは…。

「おい、背中流してやるぞ?」  

その一言で思い出した。
そうだった!  
背中の流し合いをして、今日は友情ってやつを深めようと言ったのは俺だった…。  
今更断るのも何か変だし…。
これは、自業自得ってやつですか?
諦めろってやつですか?  
とにかく、返事をしないと俺が怪しまれちゃうじゃんか!

「お、おう。さんきゅうな」  

平然とした態度を保ち…つつ…?横の土方の方を向くと、しっかりとタオルを泡立たせ、
俺の背中を洗う為にスタンバイ済みだった。  
おーい、土方さん?
本当にこの男は真面目だな、と思う。
俺が言ったちょっとした一言を守ろうと、自分は先に体を洗い終わったのに、湯船に入らずに待ってたらしい。  
なんとなく、さっき背中に意識してしまったことが恥ずかしく、
慌てて背中を洗ってもらうべく背後を差し出すが、とにかくここからが地獄だったとは…。

「強く洗ってもらいたい所とかあったら、遠慮なく言えよ?」  

まさに、銭湯での裸の付き合いだ。
けど、何?
俺、すごく恥ずかしくて背中が丸まっちゃってるし…。  
なんで、こんなことで照れないといけないんだよ!  
洗ってもらっている相手は、綺麗な姉ぇちゃんとか、猫耳な萌えな子とか、メイドさんとか、そんなんじゃありませんよ?  
俺の理性、かなり混乱しちゃってる?  
そう思ってしまうのも、しかたない。  
腰周りから円を書くように柔らかく洗い始めたかと思うと、そのままその円を肩胛骨の方へと少しずつ移動してきて、
柔らかいタオルなんかを使ってるもんだから、くすぐったくて仕方ないっつーの!  
けどこれも、俺から言い始めたこと。我慢、我慢!  
くすぐったさというか、むずがゆさというか…。
そんなんでどんんどん背中が丸くなってしまうのは、男の生理現象であり、仕方ないだろ?
そう言ってくれ、息子よ!  
大体、江戸の武士たる者、なんで柔らかいタオル使って背中流すわけ?  
お前の横にある垢すりタオルは何?飾りですか???  
…この柔らかさ、反則だろ…(汗)  
これはどこまで確信犯ですか?  
…マジ、俺の息子が限界…


「おい、背中丸まって、洗いにくいぞ」  

俺が一人、ひたすら自己の中で格闘しているってのに!  
洗っている手とは反対の手で、ぐいっと俺の肩を掴み、俺の背中をまっすぐに引き戻しやがった!  


起立!!!!!!  


息子よ、ごめん…  
もう、俺、隠せません!!!


「た、たんま!湯当たりした!」  

顔だけ背後の土方の方へと振り向き、ストップをかけたが…。

「本当だ。顔真っ赤だな」
 
いたって真面目な男は俺の顔を見て、素直に言ってくれるわけだ…。  
顔が真っ赤って…。  
それは、湯当たりの真っ赤じゃなくて、俺の息子のせいかと思うのですが、そんなことを言えるわけないから、
とにかくひたすら、何とか逃げる方向で進めようとしたわけよ。

「とにかく、出た方がいいな」

「へ?」  

一瞬、何が起きたのか理解不能だった。  
俺の膝と脇下に腕を入れてきたかと思ったら、何と俺をお姫様抱っこしてきやがった!

「ひぃっ!」  

息子が、暴走する!勘弁して!と、心の中でひたすら叫ぶ!  
元々俺の息子を隠すように被せてあったタオルを手で覆い、その存在を気付かれないようにすることで精一杯だろ、この場合。  
そんな俺の行動をどう取ったのか…。
ひたすら真面目な土方さんは、素直に言ってくれるわけなんだな。

「暴れるな!とにかく、脱衣所に出るぞ!」  

こんな時に限って、なんでこの人男前なわけ?  
そんなんで、更にドキドキしちゃってる俺って、どうなわけ?
もう、ツッコミ所も何もなくなっちゃってるじゃん!  
これって、腐女子とか、そんな新人類が喜んじゃうシュチュエーションじゃね?  
俺には、その気はなくて、ただジュニアが暴走しているだけですから!  
本当に!!!!  
どう言い訳すれば、信じてもらえるの?  


とにかく脱衣所に運ばれ、番頭さんが大判のバスタオルを床に敷いてくれ、俺はそこへと強制的に横にさせられる。  
湿気が籠もっていた浴室とは違い、涼しい脱衣所に横にさせられる俺。
バスタオル越しに伝わってくる床に冷たさは、なんとも気持ちいいわけよ。

「おい、大丈夫か?」  

はい。大丈夫です。
だから、とにかくまた浴室に戻ってください。  
心の中で叫んでも届かないのは承知なんだが、心の中でくらいは、好き勝手に言わせてもらいたいわけよ!  
何も返事をしない俺を、こいつは完全に湯当たりして返事出来ないと思っているんだろうな…。
今はその方が好都合だから、あえて否定はしないようにした方が俺の為になるだろうが。

「今、水を貰えるようにお願いしたから、とにかく水分摂れよ」  

そう言って、濡れてしっとりとした俺の髪をくしゃっと撫でて、この男は浴室にようやく戻ってくれたのだった…。  
そして、くしゃっと撫でた髪の中に、土方の指の感触だけが残る。

「…やべっ…っっ」

こうして俺は、土方が浴室に完全に入ったことを確認して、トイレとダッシュすることになるわけであった。



END







木村さんより小説頂きました!
垢すりタオルを横目に、柔らかいタオルで腰のあたりから撫で回す土方さんは
変態・・・いえ確信犯だと思うのですがーー!?笑
土銀で幸せです!
木村さん、有難うございました!!


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