「illness」




それは突然やってきた。それまではいつもと何も変わらなかった。
俺はそのままいつもみたいに授業を始めるつもりでいた。
教室のドアを開け、教壇に立つ。
まぁ実を言うと結構前から違和感は感じていたけれど、たいしたことじゃないだろうと思って気にも留めていなかった。

「起立ー。礼ー。」

日直のやる気の無い過去声までは聞こえていた気がする。教科書をジャンプとと一緒にひらいて、

「ハァィじゃぁ教科書…」

と言いかけたその時だった。急に全身に力が入らなくなり、視界がパッと暗幕がかかったみたいに真っ黒になった。
「あれ?」とか数秒思ったとたん、意識もだんだん薄れていくのがわかった。
そしてがくっとなってその場で地面と衝突したような感覚がした。





―――――――はっと目を開けたら、真っ先に穴の開いた天井が見えた。
あれ?俺さっきまで教室にいなかったか?なんで俺ベッドでねてるんだろうか。
心なしかなんだか気分が物凄く悪い。吐き気までしてきた…。
ふらふらと起き上がろうとしたら、カーテンの奥から聞きなれた声がした。

「あっ、先生無理して起きないで下さい!」

「土方……?」

視界がぼやけていて、姿は良く見えなかったがすぐにわかった。
聞きなれたおかげで遠くからでもすぐ分かるようになっていた。
また、それと同時に自分が眼鏡をかけていないことに気が付いた。

「なぁ、なんで俺こんなとこで寝てんだ?」

土方は水の入った桶と絞ったタオルを机に置いていった。

「大丈夫ですか?先生高熱で倒れたんですよ。たぶん風邪引いたんだと思います。」

「風邪?ふざけんなよ!俺はなぁ、小中高1回も休まずに登校して皆勤賞をっ…」

といいかけたところでふらっとなってよろけた。こりゃぁ本当に風引いちまったか?めったに風邪とか引かないんだけどな…。

「ほら、全然大丈夫じゃないじゃないですか。大人しく寝ててください!」

土方の言われるままにベットへと戻った俺は、ふと疑問に思った。
なんかおかしくねぇかこれ?なんで俺土方に看病されてんの?俺もこいつも本来なら授業のはず。
こんなところでこんなことしてる場合じゃねぇ。俺はともかくこいつはここにいちゃいけねーじゃん!

「なぁ土方、授業は?」

「あ、大丈夫です!服部先生が代理でやってくれてるんで!」

「いやそーじゃなくてな。お前授業は?」

そしたら土方はなぜか笑顔で楽しそうに答えた。

「保健室の先生が出張でいないみたいなんで、服部先生に言って看病させてもらうことにしました!」

「まじで?」

「まじです。」

あれ?これなんかヤバくない俺?ようするに。今ここにはこいつと俺しかいないわけで、ある意味密室ともいえなくも無い。
もしなんかあったら俺はどうすればいいんだ!?土方のことだ、絶対ん何かたくらんでるに違いねぇ。
鍵とかかけられたら逃げ場ないじゃん俺!
すると、

『ガチャ』という音が保健室に響いた。ガチャって何?もしかしてあれ?
そっと土方の方を見ると、大量の南京錠をドアの前でかけていた。
何!?なんであいつあんなに鍵持ってんの!?

「土方君〜。なんで鍵をかけるのかなぁ?」

「先生自分の格好見てなんとも思わないんですか?」

そんなこと言われても困るなぁ…。っていうかこんなぼーっとした頭じゃほとんどなんにも考えられないから、先生でも。
いや、あさっきのは自然と見に危険を感じてだな。なんか脳味噌が勝手に働いちゃったんだよ!!

「そんなエロい格好されたら我慢できなくなるんですけど…」

そんなかっこうしてない…と思ってたけど、よくよく見ると、解けたネクタイとボタンを外したシャツで、白衣も着たまんまぐちゃぐちゃで寝てた。
ネクタイは苦しいからいっつも外してるけど、ボタンはいつ外した!?
触ってない俺にはボタンがはずせるわけない。まさかこいつ仕組んだ!?

「土方、お前まさか仕組んだとかないよな?」

「ないない!そんなことするわけないじゃないですか〜。」

なんとなくこいつが影で笑ってるような気がしてきた…。
この状況を奴は絶対楽しんでる。誰も来ないのをいいことにやる気満々に決まってる。
なんとかして逃げねーと!っつても高熱でふらふらだし、頭はぼーっとするし、思うように体が動かない。
無理矢理力づくで逃げようとしても捕まるのが目に見えてる。でもそれしかねぇ。
奴は今まさに俺を食おうとタイミングを見計らっているはず。さっきもう限界的なことをポロっといってたしな。
もし奴が本当に限界なら、俺に勝ち目はない。さかどうする銀八!考えるんだ銀八!

すると、土方はなにやらかばんを持って外に出る支度を始めた。
なんだ?どっか行くのか?
すばやく荷物をまとめると、

「先生ー。俺薬買ってくるんでちょっと待ってて下さい!ちゃんと寝ててくださいよー!!」

と言い残して、保健室を出て行った。
しめた!!奴がいないうちに保健室から出られれば、とりあえずは安全圏だ。
早いトコここを出よう。奴は出るとき鍵を全部外していったし、外からかけられることもなかったから容易にドアは開くだろう。
土方の足音が完全に消えるのを確認し、窓から奴が外へ出て行くのを見届けた後、俺はそっとベッドから出て、ドアの前までふらふらになりながら歩いた。
この状況さえ切り抜けられれば…!その一心でドアをガチャッとあけた。
そろそろとドアを押して一歩踏み出そうとした。


が。


踏み出したと同時にその声を聞いた。

「……なんで寝てないんですか?やっぱり逃げるんですね?」

…まじかよ。


「てめっ…さっき外出てっただろ!」

「はい。」

「じゃなんでいんの!?先生にもわからない!!」

「大丈夫です。薬はちゃんと買ってきたんで!」

「なに!?そこだけしっかりしてんの!?っつーかどういう速さだよ!ケツにロケットブースターつけてんじゃねーの!?」

「先生のためにちょっとがんばりました!」

マジなんなんだよこいつは…。


ヤバイ。

走行している間にまた熱が上がってきちまったみてぇだ。思考が止まるー…。せっかく逃げられそうだったのによぉ!!

「それはそうと、先生残念ですよ。信じてたのに…。」

土方の言葉に反論する力も気力も今はもう残っていない。
ついに自分の足で立っていられなくなり、その場でバタンと倒れこんでしまった。

「先生!ほら、ちゃんということきかないからですよ。お仕置きしたほうがいいですかね?」

ちょっと待て!病人にお仕置きはないんじゃないの??んなことしたらぶち殺すぞコノヤロー!!
…という言葉が言葉にならない。だんだん息が荒くなってきて、意識も朦朧としていた。
それを見た土方は、俺をお姫様抱っこしてベッドまで運んだ。
男なんだから男にそんなことされてもぜんぜん嬉しくねぇー!っていうかこれはやばくないですか?
俺食べられちゃうの!?俺やられちゃうの!?
なんか言っているよこいつ!ちょ、聞き取れねぇーんですけど!

「さ…もう……我…よ。先……悪…ですよ?」

頃場が途切れ途切れになってて全然わからない。大体言ってることの予想はできるけどよ。
ってあれ?なんか重い…。こいつ俺の上にまたがってない??
やけにすーすーするな…。脱がされてんのか?ちょっとマジやばくね俺…。

「土…方……俺無理…」

「何いってんすか。…もう高熱だとろーとなんだろーと容赦しねぇ。」


イヤァァァァァァ!!このこまじでいく気だ!ダンクシュート決めようとしてる!!

そうこういってるうちに、なんか俺にも限界が来た。
ちょっと頭ん中でテンションがハイになってたせいか。
まさに土方が俺に手を出そうとしたその時。

「土方ー…。わりー……も…無理……」

今まで持ちこたえていた俺の意識が完全に飛んだ。


「先生っ!?」




――――――――気付くとそこは自宅のベッドで、学校じゃなかった。
ゆっくり起き上がってふと机をみると、白い箱と書置きがあった。
書置きにはこう書いてあった。


『先生へ  教師が風邪ひいてどーすんだ。今日のところは許してやるけど、次は手加減しねぇからな。
早く直して学校来て下さいよ。俺待ってるんで。 
 P.S.元気になったらそこのケーキ食べてください。   土方』


 汚ねぇ字で殴り書きしてあるそれを見て、思わず笑った。
気付けば風邪はどこかへすっとんでいってた。
明日にでもなんか買ってやるか。



「……ありがとよ、土方。」









りんこ様より銀八先生祭へ寄贈して頂きました!

病気で弱ってる銀八先生がたまりません!
土方も優しいのに、しっかり狙っちゃってますね〜!

りんこ様、本当にありがとうございました!


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