かたん、とメガネケースが転がった
青縁の眼鏡
壊れていないかと、淡い青色のメガネケースを開くと、いつもの銀縁の眼鏡ではなく
青縁の眼鏡が入っている
端の方に亀裂が少し入っているのだが、これは先刻の行為の為ではない。
白衣のポケットにいつも入れている、“あの眼鏡”だ
銀八の話によると、この眼鏡は 恩師に貰った特別な物だと言う
その話をする銀八の眼は、どこか哀しそうで、どこか愉しそうで。
まるで、高杉と言う保険医と話している時と同じ眼をする
それが、気に食わない
あんな柔らかい微笑みは、誰も見た事がなくて
「大串君じゃん」
ガラリと開いた引き戸に視線を向ければ銀八。
けれど保険医も後ろにいるのが見えて
「これ、だろ?」
低い口調でそう言い、
メガネケースを宙にむけて放れば
弧を描いてそれは銀八の手の中に。
銀八は、何故土方の機嫌が悪いのか分からないようで。
「晋、先行ってて」
「あァ?・・・早く来いよ。バカ本とヅラが暴走する」
そう言って一つ欠伸をしながら去る高杉を見届けた後、銀時は教室の戸をしめる
高杉ではなく晋、と呼んでいるのも気に食わない。
「ひじ・・かっ・・!」
ぐい、と手首を引っ張ると、その顔は疑問と恐怖が混じったような複雑な顔で。
拍子抜けしてしまった土方は、光を反射して輝く銀色に顔を埋めては、回した腕に力を込めて
「おぉい・・・坊ちゃんー・・」
困ったと言うように肩を竦めて
「あいつらとドコ行くんだよ」
肩に顎をのせ、銀糸を弄って
かぷり、と首筋に噛みつけばあきらかに動揺したのが分かる
「土方・・っ・・・ちょっ、言うから・・・」
降参と言うようにばんばん背中を叩く衝撃にやられて
顔を離す。
「で?」
「居酒屋ですよ。坂本さんにゴチになってきます」
はぁ、とため息ついた息でさえも甘く愛しく感じる
三人なのが心配だが、これでは浮気どころではないだろう
満足そうな視線に気付いたのか、銀八は慌てて首筋を手でおさえる
「跡、付けたろ」
ぷくり、と膨れた頬
前髪をかきあげて額に一つ口付けを落す
「いってらっしゃい、先生」
自分の席に行くと、居残っていた原因、委員会のアンケートの調査報告などの書類を片付ける
ガラリと引き戸をあけようとする自分に、静止のこえがかかる
「土方」
顔だけを銀八の方に向けると、あの柔らかい微笑みで、銀八は
「いってきます」
そう言った。
銀縁の眼鏡が、何故だろう?青縁に見えた。
その恩師は、どれだけすごい人なのだろう。
またそれも、謎の一つにしておこう