四月、春である。
 街を歩く人は新しい背広や制服に身をまとい、そして緊張しながらも期待に満ちた面持ちで皆歩いて行く。
 男はネクタイできゅっと気を引き締め、そして勤め先である銀魂高校へと向かうべく自宅玄関を出るのであった。
「…さすがに、緊張するな…」
 通勤途中、制服に身を包む生徒が男に挨拶をしながら通りすぎていく。男は「あぁ、おはよーさん」とぶっきらぼうに答えながら、校門をくぐるのであった。

 男はこの高校で教師として勤め始め、五年目になる土方十四朗だった。
 土方が緊張するには理由があった。
 この四年間、副担任などを受け持ちながら教師としての経験を積んできた。そしてこの春、とうとう担任としてクラス一つを受け持つことになったのだ。それも、よりによって銀魂高校でも歴代の問題児ばかりを集めたという3年Z組だった。
 だが土方は不安がある反面、そんな問題児ばかりにやりがいを感じ、武者震いするのであった。
 土方自身同じ高校時代などはそれなりにやんちゃをしたものだった。
 その中で誰も自分を理解しようとしてくれず、そして自分自身が壁を作っていた時期があった。
 だから、そんな子ども達の良き理解者になりたく教師という道を選んだのだ。なので、この3年Z組の担任というポジションは願ったりという所だった。



***



 新学期が始まり、初担任としてクラスを受け持ったのだが、意外に拍子抜けだった。
 俺は問題児ばかりと言うから、いわゆる不良と呼ばれるような生徒ばかりだと思っていたのだった。
 制服を着崩していたり、髪を染めていたり、すぐに喧嘩をふっかけてきたり等々…。教室へ入る際に、そのようなつもりで気合いを入れて入ったのに、そこにはいたって普通と言うしかない見た目な生徒達が座っていたのだった。
 しかし、そのような素行の悪い生徒が居ない変わりに、クセのある生徒が多いことは確かだった。
 オタクにストーカーにマダオにドS…。
 なんともよくこれだけのクセのあるガキどもが集まったかと感心するくらいだ。
 その中で、一番よく分からないのが坂田銀八という男だった。
 このクラスの担任をしてから二ヶ月が経とうとしているというのに、俺はこの男が起きてしゃべっている姿を見たことが無かったからだ。いつだって机の上に伏せるように居眠りをしているため、コイツの顔を見たことが無いと表現する方が正しいかもしれねぇ。ただ、数多の人種や天人が居る江戸でも珍しい銀髪だけが、印象的だった。
 別に意識していたわけでは無い。

 どんな顔をしているのだろうか?
 どんな声をしているのだろうか?
 どんなヤツなのだろうか…?
 ちょっとした、興味だった。

 気が付けば朝学校へ向かう途中、もしかしたらあの銀髪が歩いているかもしれないかと思うと、つい視線で探してしまうようになっていた。
 授業が終わり、特に部活動の担当を持たない俺は比較的早めに帰ることができる。だから、帰宅部のアイツと偶然校門などで会うことがあるかもしれないかと思うと、ゆっくりと校門へと向かってしまうようになっていたのだった。
 そんな時だった。
「先生、恋でもしてるんスか?」
 職員室でぼんやりとしていると、日誌を持ってきた沖田が声をかけてきた。
「ばーか、そんなんじゃねぇよ」
 俺は沖田から日誌を受け取りながら、自然にそう答える。
 恋なんかじゃねぇ、もっと別の…。
 自分でどう表現していいのかわからねぇが、これは、恋なんかじゃねぇと思う。
「けど、最近の先生はぼーっとしてて、まるで恋してみたいだって女子どもが言ってますよ」
 ちゃかすようにそう言ってくるが、ガキの言ってることなんかに本気で相手なんかしてられねぇと、日誌に記載漏れが無いかと確認をしながら、この時の俺は適当にあしらって帰るように促してやった。



 そして俺が、その銀髪が起きているのを初めて見たのは、一学期の中間テストも終わり生徒達もリラックスモードに入った昼休みだった。
 皆テストが終わった開放感からか、いつも以上にグラウンドで遊ぶ生徒が目に付いた。
 そんな時だった。クラスでもツッコミ役な新八の声が聞こえたのだった。
「銀さーん、そっち行きましたよ」
 その声の方へと視線をなんとなく向けると、普段机の上で伏せた銀色の頭が、しっかりと動いて見えたのだった。
 どうやらバレーボールをクラスメイト達と楽しんでいるらしい。
 俺に背を向けるように、新八がレシーブして高く上がったボールを、そのままダイレクトでスパイクした。
 …へぇ、けっこう背高いじゃなえぇか…。
 高校も三年となると成長期も終わり、俺より大きい生徒も沢山いるが、銀八は俺と同じくらいかなという感じだった。
「新八、逆転したら明日の昼はA定食だからな!」
 少し低めの、年齢相応な言葉使いな声が聞こえてくる。
 …へぇ、普通にしゃべるんじゃねぇか…。
 顔がこの位置からだと見えねぇが、ちゃんと友達付き合いできてるじゃねぇか。ずっと寝てばっかだし、友達なんて居ないと思ってたから、俺はちょっと意外な感じだった。
 まぁともあれ、授業中の態度には問題はあるが、まず友達とかが居るなら、そう心配することもねぇな…。
 そう思いながら、少しの間その揺れる銀髪を俺は見ていた。



 …昨日顔が見えなかったから、ってわけじゃねぇが…。
 昨日のバレーボールはすごい勢いで銀八が得点を入れていったから、おそらく公約通り逆転しているだろう。つまり、今日約束どおり新八の奢りでA定食をこの学生食堂へと食べにくるはず…。
 俺は食堂のカウンターで牛丼を注文して、マイ・マヨネーズを取り出し、肉が見えなくなるまでマヨネーズを搾り出した。
 教師が学生食堂で食べてはいけないということではないが、この嗜好の為に教頭から生徒へあまり影響が良くないと言われてから、普段は学生食堂での食事を控えていたのだ。だから生徒に一緒に食事をしようと誘われても、俺はいつも断り続けていた。
 どんぶりからこんもりと盛り上がるマヨネーズの形に俺は満足して、箸へと手を伸ばした。
 珍しい人物が食堂へ来たかと思えば、いきなりのマヨネーズだ。だからだろうか?学生食堂に居る生徒達が俺へ物珍しそうに視線を送ってくる。
 しかしそんな視線には慣れてる。別に気にすることなく俺は自作のマヨ牛丼を勢いよく食べ始めた時だった。背後から声がかかった。
「あれ、土方先生が食堂に来るなんて珍しいですね。ていうか、そのどんぶり…ご飯のマヨネーズかけですか?」
 その声の持ち主は昨日バレーボールを楽しんでいた新八に他ならなかった。
 …来た!
 ビンゴだぜ!
 つまり、昨日はやっぱり試合に勝って、そしてあの銀髪は新八と、一緒に居るハズだ…!
 自然に、振り向けばいいんだ。新八の方から声をかけてきたんだから、ここで振り向くのは全然不自然じゃねぇし。
「…あぁ、新八か…。これはマヨ牛丼と言って、牛丼の上にたっぷりとマヨネーズを載せてるんだ。美味いぞ、お前も少し食うか?」
 そう不自然にならないように俺はどんぶりを持ったまま振り向くと、予想どおりに新八の横に銀髪が居た。昨日の試合はやはり勝ったのだろう。その手に持つトレーの上にはA定食のアジフライが載っていた。
「お前達もメシか?」
 そう新八へと声をかけると、その横に立って居た銀八は何も言わずに俺の席から一つ空けた所に、トレーを置いて「新八、面倒だしこの席でいいよな?」と言って座ったのだった。
 一つ空けたのは、新八のためだろう。
「そうだね、向こうの席は混んでるみたいだし、このままここでいいね」
 こうして、新八は俺の隣に座り、三人肩を並べて食事を摂ることになったのだった。
 俺は内心、意味も無くガッツポーズだった。
「そういえば先生、今回の中間テストの問題難しくなかったですか?俺ヤマ外れちゃって本当に焦っちゃいましたよ」
 クラスの中でも、それなりにまともな人間と言えるのはこの新八と数人だけだろう。ごく当たり前に教師と生徒とする普通の会話を振ってきた。
「お前ら今年受験生だろうが。あれくらいの問題でつまずいてどうするんだよ」
 マヨ牛丼をかきこみながら、俺は普通に答えてやるが、俺の意識は新八を通りすぎて銀八の方へと向いていた。
 新八が邪魔で、その顔は少ししか見えないが、なんとなくふてくされたような表情が見える。けど、そんな感じが銀髪と合っているような感じで、目だったり口元だったり、パーツパーツでしか見えない顔だが、可愛らしい顔をしているんだろうなということは分かった。
 そのとたんに、俺の血液の流れが急に早くなったような気がするが、落ち着け、オレ!
「おい、坂田もテストの点数悪かったろ。お前いつも授業中寝てばっかだけど、ちゃんと勉強してるのか?」
 生徒の心配をするのは教師として当たり前だ。実際にコイツの中間テストの得点はどれも赤点のオンパレードだった。他の教科の先生からも授業中に寝てしまい困ると苦情も入ってきてるし。
 俺は担任らしく…。
「たまにはちゃんと起きて授業くらい受けろよな」
 もっともらしいことを言ってみるが、銀八は面倒くさそうに生返事しかしてこなかった。
「ちゃんと聞いてるのか?」
 思わず少し声が大きくなってしまった所で、新八が間に入ってきた。
「先生、銀さん家に帰ったら弟さん達の面倒を見たり、家族のために生活費を稼いだりしなきゃいけなくて大変なんですよ」
 銀八のフォローを入れるが、それがまた面白くなかった。
「だからって、授業中寝ていいわけがねぇだろうが」
 思わず説教モードに入ってしまっていた。
 俺だって、銀八の為を思って言ってやってるんだ。
 それなのに、ちゃんと俺の話を聞こうとしない銀八に苛立ちを覚えてきた俺に、ヤツは面倒くさそうな視線を送り、そして「新八、俺先に戻るわ」と隣に座った新八へと言って食堂を後にしるのだった。
「おい、坂田!明日からはちゃんと授業受けろよ!」
 とにかく逃げるように席を立っていく銀八へと、俺はそう声をかけることしかできなかった。
 立ち上がった銀八の顔は、少しムッとしたのか紅潮していた。そんな顔でさえ、可愛いとか思っちまう俺はもう病気だな。

 だが、可愛いのとその態度は別だ。
 …一体、アイツは何様なんだ?

 そんな印象が、俺には残った。
 どんなヤツか今まで不思議だったが、単にムカつくだけのガキじゃねぇか!
 この後で新八が色々と銀八の家族構成や家庭環境などを説明してくれたが、同情はしない。両親が蒸発し、三人の弟の面倒を見ていかなきゃいけねぇなんて、別に珍しいことでも無い。それなら高校を辞めて働けばいいだけの話だ。そうしないのであれば、真面目に授業を聞くべきだと俺は思うからだ。
 こうして俺の中で坂田銀八は気になるヤツから、ムカつくガキへと昇格したのだった。



***



 勢いで食堂を出た銀八は、とにかくムカついていた。
「いきなり声かけてきたかと思えば勝手なことばかり言いやがって!」
 両手をズボンへ突っ込みながら、早足で教室へと向かうと、その険しい表情のためか皆その道を開けてくれる。それをいいことに、ぶつぶつと言いながら文句を言い続けてやった。
「大体、教師できるようなお坊ちゃんに俺の苦労が分かってたまるかってーの。けど俺だって起きてる時だってあるってーの!」
 起きているのは主に休み時間くらいのものだが、本人にしてみれば、それで十分と思っているらしかった。
「…つうか、大体あの男は誰だっつー話しだし!」

 …実は自分の担任の顔も知らない銀八のようだった。



***



 そんなことがあったが、学園生活というのは普通にやってくる。毎日の授業などであっという間に一学期も終わりが見えてきていた。
 駄目は駄目なりに、このクラスの生徒達は皆純粋な所があったりすることに俺はちゃんと気付いていた。
 まぁ、人間クセがあるくらいの方が面白いし、俺にもこんなクセのあるガキ達の方が合ってるかもしれないと、忙しいながらも充実した生活を送っていた。
そんな中、一学期の期末試験も終わった翌日にこの銀魂高校では、恒例の球技大会が二日間にかけて入っている。これは勉強ばかりしている生徒の発散をかねての、学校行事だった。この球技大会が終わると試験休みに入る。この試験休みは赤点を取り補習組のみが登校すれば良いだけになり、そして終業式を迎え夏休みという流れとなるのだ。
 期末試験最終日のホームルーム。明日からの球技大会のチーム分けが行うべくクラス委員長であるお妙中心に、話を進めていくことにして、俺は教室の一番後ろに椅子を出してその様子を見守ることにした。
 こうゆうのは、センコーの俺が関わるより生徒に任せた方が生徒も楽しめるからと考えるからだ。
 テストも終わり、リラックスした表情でまずは各自参加する球技決めに入った。
 今回は、バレーボール・バスケットボール・サッカー・ソフトボールの四種目だ。どうやらこのクラスの生徒どもは馬鹿が多いが、こうったお祭り騒ぎが嫌いじゃないらしい。皆無邪気な顔して楽しそうにどの球技にするかなんて話合っていやがる。
 こんな光景を見ていると、教師って職業も悪く無いと思うんだよな…。
 こいつ等は問題児とされてるが、まだガキなだけなんだと改めて思う。こいつらを理解できない教師の方が、むしろ問題あるだろうと俺は考える。だから、この球技大会は全員に楽しんでもらいたいと思うのだった。
 そんな風に微笑ましい光景を眺めていると、立ち上がってどの球技に参加すると挙手したり、勝手に席を移って相談する生徒などでにぎわっている中、やっぱり机にうつぶしたままにその輪に入ってない銀髪頭に気が付いた。
 以前食堂であんなことがあったからといって、放っておくわけにもいかないだろう。
 あの日以来、俺は別段コイツに声をかけることはしなかった。別に意味は無かった。俺も面倒事を無意識に避けていたかもしれねぇし。
「おい、坂田お前は何の球技に参加するんだ?」
 俺は窓際で気持ちよさそうに熟睡する銀八へと声をかけてみた。別に何かを意識したとかでは無く、本当に教師として普通に話しかけたのだ。
 実の所あの日以降、コイツが授業態度を直したかと思えばそんなことは無かった。
 至って、マイペースの一言だった。
「ん〜…?」
 いきなり起こされたことに面倒臭そうに体を起こすが、まだ寝ぼけているようだった。
「坂田、お前は何の球技に参加するんだ?もうだいぶみんな決まってきてるぞ」
 ムカつくガキだろうが、俺は担任だ。放っておくわけにもいかないだろう。
「お前はどの球技が得意なんだ?前に昼休みにバレーボールやってるの見たことあるが、結構上手かったじゃねぇか」
 俺にしては柄にもなく声を掛けてやったのに、銀八の第一声はこうだった。
「ん?あんた、誰?」
 そして、再び机にうつぶしてしまうのだった。
「――――!」
 はぁ?
 俺がこのクラスの担任になってから、一体どれくらい経ってると思ってるんだ?それとも、寝ぼけていて俺の顔とかが分からねぇとか、そんなオチか?
 どちらにしても、その態度はねぇだろ。
 右手で拳をつくり、俺が怒りでこの銀髪頭をぶん殴ってしまおうかと瞬間だった。クラス委員のお妙の声がかかったことで、何とか思いとどまることができたのだった。
そして銀八以外の生徒の参加球技が決まり、お妙の采配で人数が足りないバスケットボールへと銀八は参加することになる。
 おいおい、勝手に決めていいのか?と一応心配するが、それは杞憂のようだった。
 お妙は全員の参加競技が決まったことで教壇から下りてきた足でそのまま銀八の方へと向かってきたのだった。
 そして、寝ている銀八と横に立つ俺の間に入り、そのまま銀八の耳をつねり上げやがった!
「いでででっ…っ!」
 急な痛みに涙しながら無理やり起こされてしまうのだった。
 いくら何でもやりすぎじゃねぇか?とも思うのだが、このお妙という生徒には何故か逆らうことのできないオーラがあり、俺は黙って見守ることしかできなかった。
「銀さん、貴方はバスケへと参加してもらいますから、優勝しなかったら…、どうなるかわかってますよね?」
 お妙の声で、一気に覚醒したらしい銀八は耳を真っ赤にさせながら「わかったから!」と繰り返すことしか出来ずにいるのだった。
 俺は内心ザマーみやがれと思ったりしちまったが、それは口には出さず心の中だけにしておく。
 そして銀八が起きたことを確認し、再びお妙はクラスメイトの方へと体を向けて、議題をまとめた。
「みんな、明日の球技大会は何が何でも、優勝ですからね!汚い手を使ってでも、勝ちなさい!」
 おいおい、汚い手は使っちゃ駄目だろ。
 こうゆう所が、このクラスのやつらの問題児ゆえんなんだろうな…と、改めて思わせてくれた瞬間だ。
 一瞬あっけにとられている俺に、お妙は笑顔で振り向き、そしてクラス一致団結のシメをしてくれた。
「あ、先生もバスケに参加してもらいますからね」
 お妙は笑顔でさも当たり前のように、俺にバスケへの参加を言ってきたのだった。



 この球技大会は生徒の気晴らしだったり交流作りなどを目的にしており、教師も参加自由だった。
 中には教師でチームを作って参加する暇人もいる位だ。まぁ、完全にお祭りだよな。その為か、体育祭とはまた違った熱気がある。
 俺だって、こういったお祭り騒ぎは嫌いじゃない。しかし初めて受け持ったクラス担任だ。ベテラン教師とは違って色々とやることも多いのだ。終わったばかりの期末試験の添削だって終わってねぇのに…。
 大体ズルイよな。まだ新米の俺の教科は、ほとんどの学年が期末最終日ときたもんだ。添削する時間だって他の教師より短いじゃねぇか…。
 そう愚痴を言っている中の、球技大会への参加だ。
 軽く流して断りたかったが、みごとにクラスをまとめ上げたお妙に逆らうと何かありそうな気がして、その場ではせめてなるべく試合に出なくて良いように「俺、控え要員でよろしく」としぶしぶ言うしかなかったのだった。
 こうして、体育祭の時にしか使用しないジャージをタンスから出し、球技大会を迎えることになった。
 ここまで来たら仕方がないし、どうせすぐに試合は負けてお役御免となるだろうし、俺は適当に付き合い適当に抜けてしまう気でいたんだ。
 …だが中ては外れてしまうのだった。なんせ、チームは俺を含めて五人しか居なかった。
 バスケってやつは、確か五対五で対戦するものだったと、俺は記憶している。つまり、俺は絶対に試合に出ざるおえないってわけだ。
 それも、チーム構成最悪だし。
 銀八に沖田、神楽、桂ってメンバーだ。確かにこいつらの運動神経は良いだろうが、どう考えてもチームプレイとか無理だよな…。
「せんせー、こっちで作戦会議しますよ?」
 それも、キャプテンは沖田らしい…。
 これは、負けたな…と確信した。だが、反対にそれは俺には好都合だと思った。一回戦で負けたら堂々とお役御免になれると思ったからだ。
 こうして俺はしぶしぶと、作戦会議の為に集まったはいいけど、予想通りに内容はとんでもないものだった。
「我らの委員長は今回かなり本気だ。よって、負けたら俺たちの命は無いと思った方がいい。なので、各自審判の死角で敵をボコボコにしながら、何が何でも勝つこと!」
 …沖田の作戦はめちゃくちゃだ。
「おい、いくら何でも教師の前でその作戦はねぇだろ」
 俺はそう注意をするが、大体四人とも俺の言葉無視だし!
 つうか誰も俺の話を聞かないんだったら、俺がこの作戦会議に出る意味無くない?
 これだから、最近のガキわ!
 こんなんで、試合は本当に大丈夫なんだろうかね?と思いながら、俺たちの試合の番がまわってきやがった。
「んじゃ、作戦通りよろしく」
 特に円陣組むでもなく、沖田のその一言で俺たちはコートに入った。


 まぁ先に結論を言ってしまえば、試合は反則負けだった。
 その試合中、俺は全然動くことができなかったし。
 バスケ初心者とか、そんなんじゃねぇ…。
 沖田と神楽は審判の見えない所どころか、徹底的に犯則しまくってるし。しょっぱなから、俺は担任として二人に怒鳴りっぱなしで忙しかったんだ。
そんな中で銀八と桂は意外にも真面目にコンビプレーをしてたんだ。
 それも、二人ともちゃんとバスケになってるし。
 桂がボールを運び、そして銀八が得点を入れる。
 この試合は、まるで二対五で試合をしているかのようだと感じられるようだった。
 何よりも、銀八のボール捌きにフェイク、そしてシュートの安定感。コイツもしかしてバスケ部か?と思ってしまうくらいに綺麗なフォームだったんだ。
…ただ、ランニングシュートをする時に『庶民シュート』と叫びながらシュートするのはどうかと思うが…。
 普段授業中寝ていて、体育の授業なんかもほとんどさぼっているくせに、その体には均整の取れた筋肉が付いていた。
 桂と二人でずっと走っている為、早い段階からその額からは汗がしたたり落ちていた。
そして、汗で銀八の銀髪も濡れていた。

 汗で照るその髪が体育館のライトを反射させている。

 俺は沖田と神楽の反則を注意しながら、この男から視線が外せずにいることに、全然気が付いていなかった。
 だから、前半が終わりハーフタイム中に急に沖田から声をかけられてドキっとした。

「せんせー、あんまり見とれちゃ駄目ですぜ」

 この瞬間、以前職員室で沖田に言われたことを思い出してしまったのだった。

『先生、恋でもしてるんスか?』

 そんな訳が無い。あんなガキなんか、俺の趣味じゃねぇ。大体、アイツは男じゃねぇか!
 俺は大和撫子な女がいいんだ!
 おもいきり頭を振りかぶり、俺は否定をしようとするが、なかなか沖田の言葉が頭の中から出ていってくれようとしねぇんだ!

「旦那って、女はもちろん、男からもけっこう人気あるんスよ」
 旦那とは、どうやら銀八のことのようだった。
 銀八と沖田に接点があるようには見えないのだが、こうやって同じチームで仲良く話している様子を見ていると、実はこの二人は仲がいいのかもしれねぇと思うと、ちょっと沖田に嫉妬したい気分だった。

 ハーフタイムが終わり後半戦に入ってからも、試合中に声をかけてくる沖田。
「なんつーか、男から見ても美人だし、色気ありますよね?」
 おいおい、それ十八近い男子に言う言葉じゃねぇだろうが!
「知ってますか?あそこで応援してるヤローども。全部違うクラスでしょ?あれ、旦那のファンクラブのヤローどもなんですよ」
 驚いてその方向を見ると、その間に沖田はまた絶妙な反則をかましてくれる。
「そういえば、委員長と旦那がデキてるって噂も少し前にありましたね〜…」
 なんで、こんないつも寝てばっかりで存在が無さそうなヤツなくせに、そんな噂が飛ぶんだ?そう考え立ち止まってしまうと、やっぱり沖田は神楽と一緒になってファールをかましてくれるし。フリースロー取られるし…。
 こいつは試合に勝ちたいじゃないのか?
 こんな風に俺に構ってる暇はねぇだろ!
 つうか、俺の気を逸らして反則ばっかしてたら、勝てる試合も絶対に勝てないだろうが!
 そう思うのだが、視線が銀八から離すことができず、俺はただ沖田の言葉で固まっているしかなかったのだった。

 シュートが入るたびにガッツポーズで喜ぶ銀八。
 神楽が反則をして、ムキになって怒る銀八。
 相手のディフェンスが沢山ついて逆ギレする銀八。
 敵に得点を入れられて悔しがる銀八。
 
 どれも、可愛いんだ…。そして、綺麗だと思った。
 
 俺が視線を離すことができなかった銀八は、綺麗とか色気があるとか、そんなものは通り越しているように思った。
 とにかく、俺はあの柔らかそうな癖のある銀髪に触れたいと思った。
 邪な気持ちとかではなく、本当に純粋に。
 そして、汗が流れる頬の柔らかさを、確かめてみたいと思うのだった。

 おそらくこれが、俺が恋を自覚した瞬間だと思う。








***








 恋を自覚したと言って、何かが変わるわけじゃねぇ。
 第一、俺は教師。アイツは生徒だ。
 仮に両想いだったとしても、この恋は実らせちゃいけねぇことぐらい、俺だって分かってる。
 しかし何だな。球技大会が終わり、補習が始まるわけだが…。さすが3Z生徒だろうか?三分の二の生徒が補習組だった。
 むろん、坂田銀八もその補習組のメンバーに入っていた。
 基本的に補習は自分のクラスで補習用のプリントを解いていく。そして、それを担任が監修することになっている。
 あのまま夏休みにでも入ってくれれば俺の中の気持ちだって少しは気持ちが落ち着くんだろうが、こう毎日顔を見てたら落ち着くどころじゃない。
 それも、補習だからだろうか?いつもだったら熟睡してその顔を見せないくせに、しっかりと起きてプリントを真面目に取り組んでやがる。普段寝てしまっていて、ちゃんと授業を受けてないせいかい問題の方は全然進んでないようで、眉間を寄せながら自分の銀髪をガシガシとかきながら、何とか解答を導き出そうとしている。
 その様子が、可愛いというか、何と言うか…。
 見てるだけなら、犯罪じゃねぇよな…。
 少し自分に言い訳をしていると、容赦なく邪魔が入ってくださる。

「せんせー、この問題分からないアル」
 留学生の神楽が質問してきた。
「あぁ?自分で考えやがれ」
 んなことで、俺の邪魔するんじゃねぇ!

「先生、この問題だがどうも公式が出なくて…」
 近藤がプリントを持って俺のところまできやがった。
「公式全部使ってみたら、どれか当てはまるだろうが」
 そんな面倒なモンを持ってくるな。俺は数学担当じゃねぇんだよ!

 一体全体、こいつら今日に限って積極的になりやがって!普段からこれだけ質問したりして勉強してりゃぁ補習になんてならなかっただろうが…!
 意欲的なガキ共に気分を良くしながらも、今俺のの邪魔をしてもらいたくない気持ちとがいっぱいで、周囲への注意が足りなかったというより、油断していたと思う。
「せんせー、トイレに行ってきていいですか?」
 沖田といいタイミングで、俺が銀八を見る視線の間に割り込んできた。
「あー、邪魔すんなテメェ!」
 思わず沖田を指指しながら叫んでしまってから、俺は自分の失態に気が付いたのだ。

 もしかして俺って、分かりやすいのだろうか?
 結局俺の淡い恋心は、こうしてクラスの生徒に知れ渡ってしまうことになってしまったのだ。
「大丈夫アル。みんなには黙っておいてやるアル」
「まぁ、恋愛は自由だからな。俺は応援するぞ」
 そんな優しい言葉をくれるやつもいれば、今の俺の状況を面白がるヤツも居た。
「せんせー、いくらなんでもそんなに見ていたら誰だって気がつきますって。教師なんだし、もう少し隠さなきゃというか、生徒でそれも男に恋しちゃうなんて、外道っスよ」
 沖田のこの言葉に、ノックアウトされて職員室へと逃げ込むことしかできなかった情けない俺だった。
「情けねぇ〜…」
 もう、自分の机で頭を抱え込みうなだれるしかなかった。
「この後どんな顔して教室に戻ればいいんだよ…」
 教室に戻っても、銀八にどんな顔をすればいいかなんか全然思いつかねぇ。
 そして、補習の初日のシメを他の先生に頼んで俺は具合が悪くなったと言って早退させてもらったのだった。


 補習二日目。
 銀八は普通に学校に来て補習を受けに来た。
 俺はとにかく意識しないように、銀八を見ないようにするだけで精一杯だった。
 朝から補習に来た生徒達に冷やかされたりしたが、完全に無視をして過ごした。


 補習三日目。
 教室に入ると黒板に俺と銀八の名前で相合傘のらくがきが描かれていた。
「…てめぇら、ちゃかすのもいい加減にしろよな!補習のプリント終わるまで休憩なんて無しだからな!」
 教室中から「横暴だ!」「職権乱用だ!」とブーイングだらけになったが、それを無理やり黙らせながら、俺は一瞬だけ銀八を盗み見た。
 ヤツは別に周りの声を気にすることなく、普通にプリントに向かっていた。
 …もしかして、俺ってアイツにとっては眼中無い?
 そう思うと、落ち込むしかなかった。


 補習時間が終わり、生徒を帰らせた後に職員が唯一喫煙できる裏庭で俺はタバコに火をつけていた時だった。
「銀さん、あれは照れてるだけですからね」
 そういいながら俺の隣に座ってきたのは新八だった。
 名前は似てるけど、見た目も中身も全然違う。だが、そういえば銀八といつも一緒に居ると思った。
「銀さんって弟達が本当に可愛くて、それで精一杯なんですよ。だから別に避けられてるとか、全然眼中に無いとかじゃないと思いますよ。僕から見て、けっこう先生のこと意識してると思うし」
 もしかして、コイツは味方なのか?
 お節介なヤツには変わりないが…。
 だがあのクラスの一員だ。そう簡単に信じちゃいけねぇ…。
 俺はタバコを吸いながら、考えた。
 どちらにしても、俺は教師であいつは生徒なんだし、どうもできないしな…。
 そう自分を納得させるしかなかった。



***



 ここ数日、すげー視線を感じていた。
 いや、ここ数日だけじゃなく少し前から感じていた。
 その視線の先には、いつも食堂で俺に説教を垂れてきたセンコーが居た。
 一体何なわけ?
 ガン垂れてるんじゃねぇよ!と思うが、その視線はそれとは少し違うような気がした。
 それに加えて、今日の補習での出来事だ!
 せっかく三年まできたんだ。なんとか高校くらいは卒業しておこうと思うわけだ。だから、赤点だらけだったから一応反省して補習は真面目に受けようと思ってたのに。
 どっかで見たときあるような顔が、突然変なことを言ってきやがった。
 こうゆうのは、無視するに限る。
 元々授業中とか居眠り常習犯だったけど、特にその視線を感じている時は眠ってなくても、顔をあげることができなくなってしまったのはいつからだったか、忘れた。
 とにかく、無視するに限ると思うわけだ。
 自宅に帰ってきて、弟達の為に夕食の仕度をしながら、そんな風に自分に言い聞かせていた。
 しかし自宅は良い。
 なんと言っても、うちには目に入れても痛く無いくらいに可愛らしい弟達がいるからだ。

「銀八兄ちゃん、明日で補習終わりなんだよね?僕も明日学校早く終わるから、帰りにマックに寄っていこうよ」
 そう甘えるように夕食後に弟の金時が提案してきた。
「今、夏限定のマックシェイクが出てるらしいし、兄ちゃんも飲みたいでしょ?」
 こんな素直で可愛い弟の誘いを、俺が断れるわけがないか!
 うん、うん、俺の弟はやっぱり可愛い♪
 きっと、俺が何か悩んでいるのを悟って、元気つけるために俺が好きなシェイクを飲みにいこうと誘ってくれてるんだろう…。涙が出てきそうじゃねぇか!
「じゃぁ、バイトまで時間もあるし久しぶりに行きますか♪」
 金時を膝の上に乗せて約束をすると、銀時もやってきて俺も一緒に行くと背中に乗っかってきた。
 お兄ちゃん、この弟のためだったらいくらでも頑張れるぜ!
「パー子、お前も一緒に行くだろ?」
 その様子を見ていたパー子も誘ったが、ぷいと顔を反らされてしまって、ちょっと寂しい感じだ。
「ふんだ、いいもん。じゃぁ三人で行っちゃお〜っと」
 パー子の気を惹きたくてわざと大きな声を出してみるが、パー子には全然通じないようだった。
 少し前まで離れて生活をしていたせいか、まだ気を許してくれないことを心配しながらも、明日二人の弟と一緒に過ごせる時間を楽しみにすることにする。
「そういえば、銀八兄ちゃん最近ぼーっとしてること多いけど、もう夏バテ?」
 銀時が心配そうに俺の顔を覗き込んでくる。
 あぁ、やっぱり俺ってこんな可愛いくて優しい弟に囲まれて幸せかも…。
 苦労も多いけど、この瞬間のためだったら兄ちゃんは頑張るからな!



***



 生徒の補習も全日程終わり、週明けからは試験休みに入ることが出来る。教師である土方は補習期間中に採点を終わらせた生徒達の通信簿への評価を入れるという仕事が残っているが、とりあえずひと段落仕事が落ち着いたので久しぶりに早めの時間で学校を後にした。
 土日は特に予定も入ってないし、久しぶりに寝て過ごすかなぁ〜…。
 のんびりと明日の予定などを考えながら駅へ近づいた時だった。ちょうど駅前のマックから金髪で銀八を少し小柄にした感じの、銀八そっくりな少年が出てきたのだった。
「…俺は、病気か?」
 まさか、ちょっと銀八に似ているからって、まるで銀八のように見えるなんて…。
 頭をおもいきり振ってみるが、その姿は消えてくれることはなかった。
 自分が見せている妄想とか幻覚だろうか?
 あまりもの衝撃に立ち止まってしまった所で、更に銀八より小柄かもしれないが、ちょっと気を強くしたような感じの銀八そっくりが出てきた。
 今度は自分の頬をおもいっきりつねってみるが、やっぱりその二人の姿は消えることは無かった。
「…やっぱり、俺ダメかも…。こんな幻覚見るくらいに、おかしくなっちまったのか?」
 この補習期間、銀八を見ないようにしていたから、こんな幻覚を見てしまっているのだろうか?
「…俺重症だわ…」
 とりあえず終業式は半日で終わってその後夏休みだからいいとして…。二学期から一体どうすればいいんだ?あの銀髪頭を見るだけでおかしくなっちまうんじゃねぇか?
 それよりも、全く会えない夏休みの間の方が始末悪ぃんじゃねぇか?
 そのうち、すれ違う人間が全部銀八に見えてくるんじゃないかと思うと、恐ろしかった。
 世の中の全部が銀八だったら、それはそれで嬉しい感じでもあるが、それ間違ってるから!
 自分で突っ込みを入れてみるけど、誰も聞いてくれる人なんかいねぇし。
 ほら、更に銀八本人としか思えねぇやつが出てきやがった!

 …さすが妄想だ。
銀八としてはありえねぇほどに笑って、両隣の銀八似のやつらに微笑んでいやがる!
 ちくしょう、可愛いじゃねぇか!
 あんな笑顔、反則じゃねぇか!

 あぁ、銀八が俺にもあんな笑顔を向けてくれたら…俺、本当にどうなるか想像もつかねーぞ。
 つうか、見れば見るほどに銀八本人みたいで…。もしかしたら、コイツに声をかければ俺は銀八と犯罪を犯さなくてもいいんじゃねぇか?この幻影が見せている銀八は、こんなに可愛く笑うし。
 むしろ、こっちの銀八の方が可愛いかもしれねぇ…。
 あ。こっち見た。
 なんだよ、こっち見たとたんに可愛い笑顔を消してるんじゃねーよ。
 もっと笑ってる所見せやがれ!
 そんな風に思っていたら、何か様子が変だった。
 俺の妄想が見せているハズの銀八は、ちょっとムッとした顔で、俺のほうに近づいてきた…。
「土方先生よ、こんな所でまで俺のストーカーですか?」
 そのムスっとした顔は、俺がよく知っている銀八本人のものだったのだ。

「うぅ…、あぅ…」
 俺は、今目の前に立って俺に声をかけている人物が銀八本人だということでパニックを起こしていた。
「さ、坂田…、が、学校の帰りに、寄りみ、ちか…?」
 あまりにも突然すぎて、俺は固まってしまって上手くろれつも回ってくれない。
 決してストーカーをしていたわけではなく、偶然だと訂正しなければ…。そう思うが、次の言葉が続いてくれない。
 完全に固まってしまっている俺を、銀八は疑いの眼差しで俺を見てる。

つうか、俺を見てる!

 そのことの方が、俺には恥ずかしすぎて耐え切れん!
 なのに、銀八の方は平然としたもんだった。
「アレ、俺の弟達。補習も終わったから、久しぶりに家族サービス中」
 背後から「銀八兄ちゃんどうしたの?」と声がかかったことで、後ろの少年達を紹介してくれた。
 弟を両脇に揃えると、弟達に抱きつかれたりと甘やかしまくりだ。
 金髪の方の弟なんて、銀八の腰に手まわしやがって!いくら弟とはいえ羨ましいぞ!
 うわ、そっくりな方、普通に腕からめてるんじゃねーや!
「銀八兄ちゃん、この人誰?」
 その問いに、銀八は弟達にすげー可愛い笑顔で俺を紹介してくれた。
 それよりも、こいつってばこんな可愛い顔できるんじゃねぇかよ!
 普段からこんな笑顔してたら…。
 そう考えるともったいないとしか思えねぇ!
 なんとなく、銀八のファンクラブが在ると言っていた沖田の言葉は本当なんだと納得いった。
 けど、こんな可愛いツラを振りまいてたら、それはそれで犯罪だよなぁ〜…。
 この笑顔は、もっと…。
 そんな邪なことを考えている俺を余所に、銀八は弟に説明してくれっている。
「これ、俺の担任。どうやら俺をストーカーしてるらしい。兄ちゃんモテルからさ」
 …そう冗談まじりに言ったが、実際に間違いがあまり無いので、反論がしようが無い。
「へー、兄ちゃんの担任ねぇ〜…」
 そして二人の弟は俺を上から下までじっくりと見た後に、二人して小ばかにしたような笑みを俺に向けてきやがった!
 完全に、俺は二人から悪意を感じたぞ!
 いくら銀八に似てるからって、その小馬鹿にした感じが、無性にムカついた!
 見せ付けるように銀八の体に甘える二人。完全に俺を挑発してるとしか思えない。
「こらこら、二人ともどうしたんだ?」
 さすがに銀八も二人の様子がいつもとは少し違うような気がしたのだろう。そう声をかけると、いままで俺に向けていた顔とは正反対の笑顔で、二人は「兄ちゃんそろそろバイトの時間だし、帰ろうよ」と声をハモらせて無理やり銀八を連れていっちまったんだ。



「一体何なんだ、いくら弟で顔がそっくりだからって、あの態度はねぇだろ!俺はアイツの担任だっつーの!」
 銀八の弟ズに腹を立てながらも、初めて銀八が俺の正面に立って俺を見て、そして声をかけてくれたという事実の方が嬉しかったりする。
 その瞬間の様子を思い出すと、つい笑みが漏れてしまう。
 俺の方に笑顔を向けてくれなかったのは残念だが、あの銀八が俺を見てくれた事実。
 なんか、弟ズに腹は立てているものの、気分は上々だった。
「あ〜ぁ、マジで可愛かったなぁ〜…」
 俺に声をかける直前までの、あの笑顔を思い出しながら、俺は一度止めてしまった足を再び駅へと向けるのであった。

「あんな笑顔、俺に向けてくれたらすげー幸せになれそうな気するんだけどなぁ〜…」








木村育美さんより
「逆3Z&坂田兄弟」設定の小説を頂きました〜〜!

逆3Zで高校生坂田君に萌え、土方先生に萌え・・・
さらに坂田君に可愛い弟たちがいると!!!
夢のような世界です!ご馳走様です!

木村さん、本当にありがとうございます!


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