※この話は、銀魂高校の逆3Zです
※銀さんは教師ではなく生徒になります。
※3Zの担任は土方さんになります
※坂田弁護士さんは、まだ一緒に生活していません;;
※銀八くんが高校生になったことに伴って、兄弟の年齢設定も下げてあります
※「逆3Z&坂田兄弟」の続き?です。




逆3Z&坂田兄弟 その3






 秋。季節は文化祭シーズンだった。
 銀魂高校でも、他に漏れず賑やかに文化祭が催されていた。
 今年は人気アイドルお通のライブも開催されりということで、例年以上の賑わいを見せていた。
 そんな中、銀魂高校史上でも無いほどの賑わいを見せたクラスがあった。
 そのクラスは3年Z組だった。
 その内容はメイド喫茶。
 元々問題は多いが、顔だけは良い男子と女子が多いことでも有名だったクラスだった。
 おそらくそれを武器すべく選んだ企画だったのだろう。
 文化祭の初日。
 まだ午前中のうちに、銀魂高校に通う男子生徒を始め文化祭へ足を運んだ人々の間で、そのメイド喫茶に謎の美女が居るという噂が広がったのである。
 噂が噂を呼び、3年Z組の教室の前に出来上がった行列の記録はこれからも先も抜くことは不可能であろうと言われている。
 そして、この企画を立案したお妙はその手腕から女王と呼ばれることとなるのだった。
 だが不思議なのは、噂になった美女なのだ。
 その美女は二人いたと言う。
 二人とも銀髪のツインテールという髪型で、色違いのメイド服を着ていたと言う。その顔立ちはまるで姉妹であるかのようにそっくりで、一人は直視できないくらいの美女だったと言う。そして、もう一人はいつまでも見ていたくなるほどの美少女であったと…。
 こういった催しがあった場合、文化祭終了後などに写真などが裏で出回りそうなのに、この二人に関しては信じられないほどに一枚も出回ることが無かった。
 だからこそ、よりその伝説に力を持たせることになるのだった。


 そんな3年Z組では、密かな楽しみがあった。
 発起人はおそらく沖田あたりだろう。
 名づけて『クソ土方vs坂田弟』だった。
 現在ブラコンで有名な坂田銀八に惚れてしまった3Z担任土方と、銀八の弟である銀時と金時とのバトルが熱いのだ。
 弟のこととなると必死になる銀八だったが、自分のこととなると天然と思うくらいに疎くなるのだ。
 そんな本人を他所に、校内外でバトルは繰り広げられていた。
 土方としても、何とか弟を出し抜いて銀八に自分を意識してもらいと思う。
 弟達はそんな危険分子である土方を完膚なきまでに排除しようと必死だった。
 二学期に入ってから始まったこのバトルは始め弟達に軍配が上がるかと予想されていたが、予想のほか土方がの頑張りがあり、未だに決着が付いていない。
 すでにこう着状態が続いて二ヶ月。そろそろ決着を付けてもらいと、クラスメイトも飽き始めていた時だった。




 3年Z組の担任である土方は、今回のメイド喫茶の発起人であるお妙と対峙していた。
 文化祭は地域交流を目的とし、その学園なりを外部の方に知ってもらうことがそもそもの目的である。その中で、学生達が日頃の研究結果などを発表したり、生徒同士が一致団結したりする協調性を養い、そして自由な発想などを育てることも重要視される。
 そのために、高校生らしからぬことであれば学校側としても生徒達の自主性を重んじ何も言うことは無い。
 なのでメイド喫茶の趣旨自体に文句を言うつもりは無かった。だが問題なのは、時間によって取っていた追加料金だった。
 この文化祭では『利益』を求めてはいけなかった。材料費等々でとんとんにしなければならなかった。
 そのための『文化祭予算』なのだ。
 もし予想外に『利益』が出てしまった場合、そのプラス分は学園へと寄付するか、何かしらの恵まれない子供達の為に募金をするというルールがあったのだ。
 土方は担任として、お妙をしっかりと説得してそのルールに乗せる必要があった。
 クラス委員をしているお妙は上手くクラスをまとめている反面、教師を教師と思っていない節があった。それは土方に対しても同様だった。目に見えぬ威圧感に負けないように、ひたすら必死だった。
 とにかくどう切り出すべきか…。
 勢いだけでお妙の前に出てきてしまったことに、土方は後悔した。だが、文化祭も無事に終了した今、土方はそのクラス収益を職員室で報告しなければならないのだ。すでに伝説に残るほどの人気ぶりから、収益がプラスであることは誰の目から見ても分かるだろう。
 どうすればいいのかと悩んでいた時だった。


「なぁお妙、俺の制服しらねぇ?」
 奥の更衣室の方から、メイド服姿のままの銀八が現れるのであった。
「………!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
 その姿を思わず凝視してしまった土方は、そのままに固まってしまった。
 むろん、お妙の作戦である。
 お妙は気が付いてたのだった。
 土方のバックに、今沖田がいることを。
 今回の文化祭、金になる写真は全てお妙が牛耳っていた。
 そのために、人気のある女子を始め、なぜか男子にまで人気のある銀八の写真を手に入れるべく多くの人間が沖田へと依頼をしていたのだった。
 むろん、その中に教師であるはずの土方の名前もあった。銀八の写真が欲しいと。
 そのことも、むろんお妙の計算内だ。
 なので、教師であり担任である土方を自分の懐へと治めることができれば、今回のメイド喫茶の収益の他に写真の収益を得ることができると踏んだのだ。
 金銭がかかっている時のお妙は、宇宙一の悪党にでさえなることができるのかもしれない…。
 なんせ、お妙は沖田の唯一の弱点であり逆らうことの出来ない近藤をすでに取り込み済みだった。
 ・・・そもそも、最初から近藤はお妙の奴隷みたいなものなのだから、今更という気がしないでもないのだが…。
 そんな緊迫した状況とは思っていない銀八は、のんきにメイド姿のままに出てきてしまったのだった。
「なぁ、俺の制服ってどこ?」
 そう言いお妙の近づきながら、その正面には銀八をストーカーし続ける担任の姿があることに気が付いたのだった。
 その姿を確認し、銀八はまた面倒なのがいると思った。
 この姿は昼間に一度見られているのだが、お妙の指令とは言え土方に笑顔で「お帰りなさいご主人様」などと言って、失神させたという事実がるので、なんだか気恥ずかしいのだ。
 今校門を出たところで弟達が待っているのだ。後夜祭などには全く興味は無かった。とにかく弟たちの元へ銀八は向かうことしか考えていなかった。
 なるべく土方の顔を見ないようにしながら、銀八はお妙にもう一度声をかけた。
「なぁ俺の荷物が全然見あたらなねぇんだけど、どこかしらねぇか?銀時たちが校門所で待ってるから、急いでるんだがよ〜」
 早くこの恥ずかしい格好を、銀八はどうにかしたかった。
 大体男が女装をしたって可愛いわけじゃないのに、この二日間視線が痛かった。
 まさか自分が伝説の美女のなっているなんて思ってもみてない為、本来の姿に戻りたくてしかたなかったのだった。
 そんな銀八の気持ちを分かっているにも関わらず、お妙は「今少しばかりだけ、我慢しててくださいね」と言って、土方の方へと向くのだった。
「先生、取引しませんか?今私の手元には銀さんの沢山の写真のネガがあります。これは、肖像権侵害になるので銀さんの弟さんたちに渡す予定だったのですが、今このメイド服姿の銀さんを一枚だけ写真に撮っていいですよえ?その代わり、あとは全て何も無かったことにして下さいな」
 そう申し出てきたのだ。
 銀八にしてみれ、本人の承諾無しに何の交渉しちゃってるわけ!!??といったところだろう。
 そもそも、銀八は会話の流れに全くついていっていなかった。
 だが、自分のことに鈍い銀八にも分かることがあった。今このままお妙の近くにいたら、危ないということは…。
 しかしメイド服を着たままの恥ずかしい格好で帰れるわけも無く、動くに動けずにいた所に、お妙は銀八を安心させる為の声をかけた。
「銀さん、大丈夫ですよ。たかが一枚写真を撮られるだけです。別にその写真がどんな目的で使われようが私たちには知ったこっちゃないですか。たかが一枚の写真くらいで全て丸く収まるのですから」
 そう、想像もしたくないことを言ってくれるのだった。
「おい、お前!俺がその写真をどう使おうとかなんて、何でそんなこと言うんだよ!」
 土方も銀八の目の前でそんなことを言われて黙っているわけにいかなかった。
 慌てて修正を図ろうとするが、それが余計に悪かったようだった。
「・・・変態・・・」
 銀八は、土方を汚いものを見るような蔑んだ目で見ることになるのだった。





***




 冷めた空気の中、お妙は全く気にすることなく土方に声をかけた。
「土方先生、何でしたらツーショットで撮ってあげますよ?」
 そう言って、指で作ったフレームに二人を収めた。
「私が没収した写真なんかよりも、ずっと価値があると思うんですけど?」
 学園の中では個人であるよりも、教師であるべきと思っている生真面目な土方でさえ、この誘惑にはふらついた。
 大体、沖田に銀八の写真を依頼した時点で聖職者ではないのだが…。それは今は触れる所ではない。
 夏休み前、銀八への想いが本人どころかクラス全体にばれてしまい…。
 そして、何かが壊れストーカーまがいのことをしてしまった。
 新学期が始まってからも、銀八の弟と攻防戦を繰り広げながらも、教師という特権を捨てずに有効活用をふんだんにさせてもらっていた。
 だが、どうしても手に入らないものがあった。
 二人寄り添った写真である。
 近くなるどころか、遠くなっていく関係。
 もしかしたら、そんな写真が取れるのは最初で最後になるかもしれない…。
 声には出さないが土方のその顔には『ツーショット写真が欲しい!』と書かれていたのだった。
 誰が見ても、分かりやすすぎる反応に、お妙も呆れるしかないほどだった。




 だが、そう簡単に物語が終らないのが3年Z組だ。
「土方せんせー、いいんスか?ここでその女の条件を飲んだら、これから先絶対にせんせーと銀八くんとは進展は無くなりますぜ?むしろ、この女に寝取られますよ」
 このタイミングで突然に教室のドアを開け、そして乱入してきたのだは土方の淡い恋心をクラス中に暴露させ、その動向を一番楽しんでいる沖田だった。
「まぁ、失敬な。私は銀さんを襲うなんて破廉恥なことは土方先生と違ったしやしませんよ」
 お妙は沖田の乱入に動じることもなく、しっかりと正面に座る土方への攻撃も忘れずに言った。
「第一、銀さんは今弟さん達を愛おしく育てることで精一杯なブラコンなんです。恋愛とか、そんなことをしている暇は無いんですよ」
 どうやら沖田の乱入により、話の軸がズレ始めているようだった。
 それも、最初から蚊帳の外に出されてはいる銀八は、更に外に追い出されてしまった感じがするのはおそらく本人の気のせいではないだろう。
「大体俺はこの女が最初から気に食わなかったんだ。近藤さんも何でこんな女がいいんだか…」
 両手を広げ、沖田は大げさに言ってみせるが、お妙も負けていない。
「あら。私も近藤さんには迷惑してるんですよ。沖田君の方からストーカーするのはやめてもらえるように言ってもらえないかしら?」
 そう切り替えしてくるのだ。
 このままにお妙vs沖田という図なのかと思えば、今まで存在感でさえ無かった人物までが登場してしまう。
「あら、お妙さん。あなたにはそのゴリラが一番お似合いじゃなくて?銀さんは、私の大切な人なんですから!」
 そう叫ぶように登場したのは、同じクラスメイトであり元祖銀八ストーカーである猿飛あやめこと通称さっちゃんだった。
 こうなってくると、収拾付かなくなるのがこの3Zの特徴だろう。
「おい、猿飛お前もしかして銀八のことをずっとストーカーしてたのか?なんつーことしてるんだよ!」
 土方は教師としてそう言うが、しかし彼だってやっていることはあまり変わらないということはスルーさせたらしい。
「土方先生、それは違います。私は愛する銀さんをただ見守っていただけです。先生こそ教師って立場利用して何かと銀さんに接触しようとしてたじゃないですか」
 二人の間で今の瞬間に火花が散ったように見えたのは、きっと目の錯覚ではないと銀八は思った。
 その一方で、また面倒なのが登場してくる。
「お妙さん、貴方のことを深海よりも深く愛する俺よりも、その銀髪の方がいいって言うんですか?」
 ここぞとばかりに乱入してくるゴリラ(近藤)だが、お妙は動じることも無く、冷静に少し笑顔を向けて、右手のひらを差し出してそのゴリラへと向かって言った。
「お手」
 近藤は、自分に一瞬向けられた笑顔で有頂天になり、そして犬以下のと化すのだった。
「わん♪」
 そう鳴いて、お妙の手のひらの上へと喜んでその手を乗せるのだった。
 むろん、そんな犬を使わない手は無い。お妙はこっそりと微笑みながら、命じるのだった。
「さ、近藤さん。この男を何とかしなさい」
 しっかりと、沖田を指差すのであった。
 最初からお妙の愛の奴隷となっている近藤だ。その命令に背くわけがなかった。
「ふふふ。そうゆうことだ、総悟。俺は愛に生きる男。悪く思うなよ?」
 近藤は掃除用具の入ったロッカーからモップを一本取り出すと、その柄先を沖田へと向けるのだった。
「ちくしょう、女!汚ねぇぞ!」
 お妙、沖田、さっちゃん、近藤、土方の醜い争いが始まってしまったのだった。





 今の状況から完全に独り置いてかれている銀八。
「おーい、趣旨もどそうよ?」
 白熱した中、冷静に声をかけてみるが、その声が届くことは無いようだった。
 大体何が元でこんな小競り合いになってしまわけ?
 銀八はもう帰りたくて仕方がなかった。
 窓の外に見える校門の外には、今弟たちが自分のことを待っているのだ。
 こんな時にみんなをさりげなくまとめてくれる新八は、お通親衛隊としてこの文化祭中は忙しく走り回っている為、この場にはむろん居ない。
「銀ちゃん諦めるアル。銀ちゃんがブラコンな間は、解決しないアルよ」
 まさかの神楽が、いつの間にか銀八の横に一緒にしゃがみこみ、そして確信をついた一言を言うのだった。
 その一言を聞き逃していなかったのはお妙と沖田だった。
「そうですよ、銀さん!あなたは一体誰を選ぶっていうの?」
「旦那、こうなったら誰か選んじまって下さいよ。そしたらこんな面倒なことも無くなるんですから」
 神楽のちょっとした一言で、矛先が一瞬にして自分に向けられることになってしまった銀八だった。





 大体、銀八は今回のことには関係なく無いような気がするわけだ。
 そもそも自分の担任をどうこう思ったことは無い。
 とにかく弟達が可愛くて、今は弟達と過ごす時間が一番大事で、それ以上のものは無いと思っているのだ。
 土方もほとんど意識をしたことも無いのだ。
 始めはお妙と土方と銀八しか居なかったはずの教室には、いつの間にかクラスの主要メンバーが揃っていた。
 そしてその視線が、全て銀八へと向けられているのだ。
 普段の銀八であれば『逃げるが勝ち』を決め込むのであろうが、今日に限ってはまだメイド服のままだ。そんな恥ずかしい格好のままに逃げられるほどの変態ではないのだ。
 そんな銀八の気持ちを知ってか知らずか、留学生の神楽は無責任に言うのだ。
「銀ちゃん、観念するアル」
 神楽はその手を銀八の肩へ置き、皆というよりも土方と向き合うことを進めるのだた。
 銀八は気が付いていないが、その表情は好奇心に満ちていて、絶対に今の状況を楽しんでいるとしか思えないような表情だったことは、この場だけの秘密である。




***




 さっちゃんは昔から銀八のことを愛していると言ってはストーカしてきた。好意を持たれること自体は嫌いじゃないが、いかんせん顔は可愛いくせにストーカでドMなのだ。さすがに、銀八の趣味ではない。
 銀八の対応策としては、遠くから見ている分には視界に入れないようにして無視し、そして近づいてこようものなら排除に努めている。
 まぁ、さっちゃん曰くそこが銀さんのプレイであって、愛らしいのだが…。

 土方といえば…。
 ストーカー的行為にはかなり困ってはいたのだが、別にそれ以上に迷惑をかけられたわけではなかった。
 更に、銀八には言いたいことがあった。

「だって俺、別にコイツに告られたわけでも無いのに、なんで決めたりしなきゃいけねぇんだよ」

 そうなのだ。土方は夏休み前の補習中にその行動で銀八への気持ちがバレただけで、その気持ちを本人へとちゃんと伝えていなかったのだ。
 その場に居た皆も、確かにと納得だった。
「…それは、土方先生が悪いわね…」
「そうっスよ、ここまでの危ない行為をしといて、まだ告ってなかったんスか?」
「そうだよな、土方先生は俺と一緒で奥手なんだよな」
 この一言は、その場に居た全員が声を合わせて近藤へと「いや、違うから」とツッコミを入れてしまう。
「銀さんへの想いは、告白さえもできない程度のものってことよ!所詮私の愛には勝てないわよ」
 そんな風に、口々にみな土方を非難し始めたのだった。
「で、土方のセンコーはどうなんだ?」
 神楽は制服のポケットから好物である酢昆布を取り出し、その一枚を差し出した土方の言葉を聞こうとしていた。
「男は、大事な瞬間ってのがアルって昼ドラで言ってたね。この酢昆布を食べて、お前も男になれ」
 おそらく、今ここにいる人物で、一番男前なのはこの神楽であろう。




 …何なんだ、この告白タイム的な空気は!
 土方は顔面を引きつらせながら、どうすれば自分がこの場から逃げられるかを考えるかで一生懸命になってしまっていた。

「土方せんせー、ここは思い切って玉砕しちゃってくださいよ」
 そんな風に完全に面白がりはじめた生徒達に、土方は文句一つを返せずに、ただ銀八だけを見ていた。


 もしかしたら、このまま黙っていた方がいいのかもしれねぇ。
 もしちゃんと気持ちを伝えてみて、玉砕したら銀八が卒業するまでの半年俺はどうしていけばいいのか?
 それだったら、今何も言わずにこのままの関係ってのも悪くないと思うのだが…。

 単細胞で難しいことを考えることが出来ない土方の脳は、今フル稼働していた。

 そんなことをしている間に、時計の針はどんどん進んでいくのだ。
 銀八は自分を待っている弟達のことで頭がいっぱいになっていた。
 俺を待ってる間に誰かに絡まれたりしちゃったらどうしてくれるんだ!
 あんな可愛い弟達なんだ。事件とかに巻き込まれた困るじゃねぇか…!
 こうなったら、もうこの格好のまま逃げるしかないのか…?

 可愛い弟のためなら、自分をも犠牲にできる銀八だった。



 保身にと悩む土方よりも先に行動に移したのは、銀八が先だった。
「俺、急いでるから帰るわ…」
 もうメイド服なんて恥ずかしい格好でも仕方が無い。途中で安い服でも買ってすぐに着替えればいいと考えたのだろう。
 銀八は教室のドアへと向かった時だった。
 その右手を沖田に、左手をお妙にがっちりと掴まれてしまうのだった。
「あら、こんな楽しいことをそんな中途半端に終わらせたらつまらないじゃないですか」
「旦那、逃がしませんよ」
 おいおい!ついさっきまでお前達喧嘩してたよな?いがみ合ってたよな?
 まさか、普段から仲良くない二人が、こんなところで意気投合してしまうのだった。
 若干属性こそは違えど、二人は真性のSなのだ。
 こうゆう時は、考えることは一緒なのだろう。

「さぁ、先生!お膳立てはばっちりですわよ!」
 銀八を拘束してむりやり土方に告白させようなんて、お膳立ても何もないじゃないかと二人はツッコミを入れたかったが、状況はそれどころじゃなくなってきたらしい。
 更に始末悪いことに、土方は流されやすい男でもあった。




 土方は拘束された銀八の正面に立つと、その右手を差し出した。

 おいおい、昔の告白番組か???
 やることが古すぎるんだよ!
 銀八の額からは、いやな汗が流れてしまっていた。
 この手の冗談は嫌いなんだ!
 そんなことをいくら心の中で叫んでも、口に出さなければ意味は無いのだ。



 今の状況からひたすら逃げたい銀八に向かって、土方の態度は紳士であった。
 その表情は真剣に、その想いを伝えてきたのだった。
「坂田銀八、俺はお前が好きだ。お前の顔も声も、弟達を大事にしているところとかまとめて、好きだ」
 告白しながら、土方はその視線は銀八から外さなかった。
「だから、もう少しでいいから俺を見てほしいんだ。お前の大好きな弟の次に、俺を見てほしいと思ってる…」
 へたれとは思えないほどに、上出来な告白だった。
 おそらく一方的に気持ちを押し付けるような告白だったら、銀八は即答で断っていただろう。
 だが、こんな風に言われてしまっては、銀八の性格上無碍に出来なかった。
 何よりも弟が大事だということを理解してくれているというのが、銀八には嬉しかったらしい。
 土方が一番ではなく、弟の次でもいいから、自分を見て欲しいといぢらしく言う男に何の情がわかないわけがないだろう。
 今の銀八のままでいいから、その後に居させてくれるだけで幸せだと相手は言っているのだ。
 ここまで理解をしてくれ、愛されているというとを、今始めて知ってしまった銀八だった。
 緊張のあまりにうつむいたままに右手を差し出している土方は気が付いていなかったが、銀八のその顔は真っ赤になっていた。



 無碍に断ることができねーじゃねぇか…



 言われた本人も、とにかく照れくさくなってしまったらしい。
 恥ずかしさのあまりに真っ赤になった顔を隠すべく、視線をそらしてそっぽを向くと、土方へむかって今の精一杯の返事をしてやるのだった。
「…少しなら、いいぞ…」
 




***





「銀八兄ちゃん、まだ〜?」
 そんな気恥ずかしい空気に包まれた教室の空気を壊してくれたのは、銀八を心配した金時だった。
 校門でいくら待てでも来ない兄を心配して様子を見にきたのだった。
 その時にはすでに二人は向かいあいながら、お互い顔を真っ赤にして照れて立っているのだ。
 そんな様子を見て何も気が付かないほどバカではない金時は、その空気を今壊さなければもっとヤバイことになってしまうと、本能が告げた。
 慌てて顔を真っ赤にさせている銀八の腕に絡みつくと、土方へと威嚇するような視線を送った。
「兄ちゃん、銀時兄ちゃんもパー子も心配してるよ。早く着替えて帰ろうよ」
 無理やり銀八を金時の方へと向かされたことで、銀八は今の状況に慌ててしまう。
「き、金時!あ…あぁ、そうだよな、い、今、着替えて、くる…から…」
 ギクシャクとした動きで、お妙の元へと制服を返してもらうべく進むのであった。
 その間も、金時は銀八から離れようとはしない。
 金時は銀八が更衣室へと入ったことを確認し、そして土方の元へと進んだ。
「銀八兄ちゃんに手を出そうとするなら、俺達だって黙ってないからね」

 そう、宣言するのだった。




***





「なぁ、新八ぃ〜、俺の告白って結局あれは振られたんだろうか?」
 教師用の喫煙所で土方は、声をかけてきた新八へと尋ねて見た。
「さぁ、どうなんでしょうかね?僕はその場には居合わせなかったので何とも言えませんよ」
「…だよなぁ〜…」
 吐き出した紫煙が空へと溶け込むのを眺めながら、土方は小さくため息をついた。
 あれから、別段二人の関係には変化は無いように見える。
 そう思っているのは、土方本人だけであり、周りの人間から見れば十分に変化はあるのだが…。
「けど、ちゃんと告白したことによって銀さんは先生のことを意識し始めてると思いますよ?本当に嫌だったら銀さん今頃先生のことを徹底的に避けてると思うし」
「そう…だよなぁ〜…」
 それにしたって、意識してくれてるならちょっとは笑顔くらい見せてくれてもと思ってしまう土方だが、新八の見解は違うようだった。
「銀さんだって、好きって言われて嬉しかったみたいだし、照れくさくてまだ笑顔とか出せないだけだから、ゆっくりと近づいていってあげてくださいね」
 そういい残し、新八は次の授業の時間になるからと立ち去る。

「…ゆっくりと、ねぇ〜…」
 いままで弟のことだけを思って生きてきたのだ。恋とかそんなことを考えたことも無いという銀八だ。
 むろん、土方だって今まで誰かを意識してきたことなどない。
 お互い初心者マークってことなのだ。

「ま、焦らずにじっくりとってことかね…」
 土方はタバコを備え付けの灰皿で消すと、次の授業の準備をすべく校舎の中へと入っていった。

 気持ちは伝えたのだ。
 あとは、この気持ちを受け入れてもらうことと、最大のライバルである弟達をどうにかしなければならないのだ。
 やらなければならないことが山積みな土方だった。
















木村育美さんより
「逆3Z&坂田兄弟」の続きを頂きました!
坂田兄弟強化月間用に書いて下さったものです!

「ブラコンな坂田兄弟と土方先生の銀八争奪戦が見たい」
と、リクエストした甲斐がありました!幸せです!

木村さん、萌えな小説を本当にありがとうございますーー!


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