
二月十四日。江戸ではバレンタインという西洋のイベントで町中が浮かれていた。
可愛らしい色の包装紙でラッピングされたチョコが、店頭で売られ、町は活気に満ちていた。
お世話になった人へ、感謝の気持ちを込めたチョコ。
大好きな人愛情を込めたチョコ。
そして、想いをなかなか伝えることができずにいる子の、年に一度の気持ちを伝えるのに背を押してもらえるこのイベント。
そんな子が送る、ちょっと控え目だけど沢山の気持ちを込めたチョコ。
今江戸の中には、沢山のチョコと愛情に満ちていた。
しかし、学校は違うのだ。
学校の敷地に入れば、そこは俗物とは離された学び舎なのだ。
恋だの愛だのを持ち込む場所では無い。
まだまだ世界の狭い高校生にしてみれば、その学び舎こそが『社会』であり『世界』でもある。
その中で、沢山の学問、そして愛を学ぶ場でもあることは承知している。
そんな中で、生徒が過ちを犯さないように導いていくことも教師の役割だと承知している。
しかしただ守るだけでもいけない。ある程度ゆとりを持ち、そして少しくらい無謀なことをさせた方が子ども達は強く成長すると信じている。
しかし教師という立場上、彼らがハメを外してしまうのを多少は見逃してやるとしても、校則で禁止されている物の持ち込みは注意をしなければならないのだ。
生徒によっては、教師へとチョコを持ってくる者も居る。
甘味が大好物な銀八としては、素直に受け取りたいのだが、立場上受け取れないのだ。
それが、公務員の悲しいところ。

こっそりと生徒からチョコを貰っている教師が居ることも、知っている。
実際に自分がそうだから。
しかし、今年は貰うことができないのだ。
去年までなら、生徒を叱りながらもしっかりとチョコがもったいないと戴くところだが…。
バレンタイン当日の朝。
銀八の一人用のシングルベッドの中には、自分以外の人間が寝ていた。
大人と変わらない、むしろ自分よりも少し大きな身体の人間が二人も寝ているのだ。シングルベッドもいい迷惑だろう。
特別柵があるわけでもないので、お互いベッドから落ちないように身体を密着させなくてはいけなく、その隣で眠る人物の体温が触れた肌から伝わってくる。
寝ているせいだろうか?
普段は低体温ぎみな身体は、温かかった。
「…気持ち良さそうに寝やがって…」
銀八は、自分の担当するクラスの生徒でもある、土方のサラサラな髪を指で掬い、そして指でいじる。
サラサラとした感触が、指に気持ちが良い。

そして枕元には、可愛らしい包装紙でラッピングされたチョコが置かれていた。
「…どこのサンタだよ」
銀八はそのチョコを手に取り、苦笑した。
学校の中じゃ、今年は誰からもチョコを受け取らないと約束したから。
だから、バレンタインのこの日、朝一番に貰ったチョコが、俺への唯一のチョコ。
今手にしているチョコが、一番自分への愛情がこもった、愛しいチョコ。

これ以上に甘いチョコは、きっと世界中…宇宙中探したって見つけることはできないだろう。
木村育美様よりバレンタイン土銀八小説を頂きました!
勝手に挿絵入れました+勝手に先生を脱がしてみました。寒そう。
遊んですみませんーーーでも楽しかった!甘々土銀八万歳!
木村様、ありがとうございましたァァ!!
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