小さな小さな君へ…。





屯所の庭に野良猫が住み着いた。

隊士の誰かが餌をやってるらしく、追っ払っても追っ払ってもやって来る。

大方、山崎辺りだろう。後で覚えてろよ。

別に動物が嫌いな訳ではないが、猫はどうも苦手だ。

あの捕まえた獲物を自慢げに見せに来るのが堪らなく嫌だ。

二三日前も半殺しの雀を俺の部屋の前の縁側に置いて行きやがった。

「ニャァ〜オ」

障子の向こう側から猫の鳴き声がする。

また来やがったな、俺は立ち上がると縁側の障子をガラリと勢いよく開けた。

思った通り、件の野良猫が何かを縁台に置いて逃げて行った。

「また何か捕まえてきやがったな!」

小さく舌打ちし、縁台に置かれた可哀想な獲物に目を遣る。

「!!!!!!!!!!!!」

俺は自分の目を疑った。

「…ウソだろう…?」

そこに落ちていたのは万事屋の姿をした小さい小さい生き物だった。




小さい万事屋は酷い怪我をしているようだ。

まさか死んではいないだろうな。

そうっと拾い上げ、掌に乗せる。

顔を近づけて見ると、小さな胸が波打っているのがわかる。

良かった死んではいないようだ。

別にコイツとは仲が良い訳でもない。

いつも何やら厄介な事件に巻き込まれて怪我ばかりしているようだが、別に俺の知らない所で野垂れ死ぬのなら一向に構わない、しかし俺の部屋の前で死なれるのは流石に寝覚めが悪い。

取り敢えず障子を閉め、部屋に戻り座っていた座布団の上にそうっと小さい万事屋を寝かせた。

さて、どうしたもんだか。

山崎でも呼んで怪我の手当てでもさせるか。

別に俺が面倒看てやる義理はない。

山崎を呼ぼうと立ち上がったその時、小さい万事屋が小さく動いた。

苦しそうに眉根を寄せ、色褪せた唇を小さく開き何か呟く。

「……」

「?」

俺は小さな万事屋の唇に顔を近づけた。

「…み…ず…」

どうやら水が飲みたいらしい。

俺は文机の上にあった飲みかけの茶に目を遣った。

どうやって飲ませばいいんだ?

意識があれば茶碗の縁から飲ませる事が出来るだろうが、今は無理だ。

俺は茶碗に指を入れ、着いた雫を万事屋の小さな唇に落とした。

薄く開いていた万事屋の口に上手い具合に入ったようで、コクリと小さく喉を鳴らして雫を飲み込んだ。

その真っ白な喉に視線が釘付けになる。

何故だか山崎にコイツを渡すのが躊躇われた。

眠っている小さな万事屋をじっと見つめる。

まずはボロボロの服を脱がせて傷の手当てだ。

猫にやられたのだろう、いつもの白い着流しはズタズタだ。

掌に乗る程に小さくなった万事屋の着物を脱がすのは容易ではない。

力の入れ処を間違うと腕を折ってしまいそうだ。

何とか着流しと黒のインナーを脱がせた。

傷は思った程酷くはなかったが木目の細かい陶器のような肌の万事屋は、まるで良くできた人形のようだ。

消毒薬に綿棒の先を浸し、傷の手当てをする。

傷に触れる度に万事屋の体が小さく跳ねた。

苦しそうに小さく身じろぐ万事屋の姿に何やら嗜虐心を擽られる。

俺にはそんな趣味は無い筈だ。

包帯を細かく裂いて小さな体に巻いてやると、子供の頃姉が人形遊びをしていたのを思い出した。

手当てを終えると、どこに寝かそうかと考える。

座布団の上だと誤って潰してしまいそうだ。

俺は押し入れからタオルを取り出すと小さく畳んで文机の上に置いた。

そして小さな万事屋をそっと抱き上げ、タオルの上に寝かせた。

タオルの端を折り曲げて掛布団のように掛けてやる。

取り敢えず今はこれでいいだろう。

後で山崎に、…何て言うんだっけ?アレ、そうドールハウスか?アレを買って来させよう。

何故かワクワクするような妙な気持ちに戸惑いながらも、小さな万事屋の寝顔をじっと見つめる。

今ならトッシーの気持ちもわかるような気がした。









エリザベス様より頂きました!
手乗り銀時の小説ですっ!
ブログで「手乗り銀時ハァハァ」と頭のおかしい語りをしていたら
こんなにも萌えな小説を恵んで下さったのですーー!
小さい銀さんが猫に咥えられ、獲物として土方さんの元へ届けられてしまう場面が特に好きです〜!

エリザベス様、本当にありがとうございますー!




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