歌舞伎町から徒歩で約十分の国立公園の中は、花見を楽しむ団体で賑わっていた。
 大きなレジャーシートを広げ、お酒を呑み、桜を楽しむ人々。
 その中でも、ひときわ騒がしい団体が居た。

 公務員である土方は、酔っ払って何か事件など騒ぎを起こさないようにこの公園を回るのが今日の任務だったのだが…。

「ちっ、あの馬鹿が…」
 土方の視線の先で大暴れしている一行は、彼がよく知る団体だった。
 できることなら、このまま気がつかなかったフリをしたい。
 あの団体と関わるとろくなことが無いのだ。
 特に、あの銀髪の坂田銀時という男。
 土方にとって、理解不能な男だった。
 死んだ魚のような目をし、月曜日の朝になるとジャンプを買いに歩き、そしていつ仕事をしているのか…家賃もかなり滞納しているようだし。不真面目の代名詞のような人間なのだ。
 とにかく真面目一本に真撰組副長として日々江戸の安全の為戦っている土方にとっては、間逆な人間だと思うのに、すれ違うことはおろか関わることなんて一生無いと思う人間なのに、何故かこのように様々な所で見かけてしまうのだ。
 きっとあの銀髪がいけないのだと、土方は考える。
 日本人らしからぬあの銀髪は、いくらあまたの天人が居る江戸とはいえ、目立つのだ。

 山崎あたりを無線で呼び出し、少しあいつらを黙らせるように言えばいいだろう。

 あまりかかわりを持ちたいと思っていない土方が、無線を取り出したときだった。


「お?土方さんじゃねぇっスか!お勤めですか〜?」

 まさかまさかで、銀時が土方に気づき絡んできてしまったのだった。

「てめぇ、酒臭ぇんだよ!」
 距離が近づいただけで、すぐに届くお酒の香り。そこから銀時がかなりの量のアルコールを摂取しているこが分かる。
「大体お前達騒ぎすぎだ。周りの人たちに迷惑になるから、もう少し大人しくしやがれ」
 自分は今公務中。
 今、この男とやりあうつもりは一向に無い。第一こんな酔っ払いの相手なんてするだけ時間がもったいないと考えるのだ。
「あ〜ら、土方さんったら冷たいのね。春とはいえ、まだ寒いのに・・・」
 銀時はわざとらしく、女言葉で土方にどんどん、何かたくらんでいる顔で近づいてくる。

 これ以上近づいてくるんじゃねぇ!

 土方は、困っていた。
 ここで背を向けて逃げることは、武士としてできぬこと。

 かといって、この酔っ払いの相手なんて冗談じゃないと思うのだ。

 ここはやはり、武力行使か?

 土方は、刀に手を添えようとした時だった。銀時は後ろ手に何かを隠していたのだが、それを土方の目の前に突き出したのだった。

「じゃーん!酒だ!お前も飲むか?」
 銀時は、手に持っていた一升瓶の酒を勧めてくるのであった。
「じょ、冗談じゃない。俺は今公務中で、お前みたいなタチの悪い酔っ払いを取り締まるために居るんだ。何だったら今お前をしょっぴいて屯所に連れていってやってもいいんだぞ?公務執行妨害でな」
「あぁ?この銀さんのお酒が飲めないってんですか〜?今日のは、ババアが取り寄せてくれた高級な酒なんだぞ?」
「高級な酒なら、もっと落ち着いて味わって呑め。酒が泣くぞ」
「見ろ、この桜。満開じゃねぇか。酒に桜、日本に、江戸に住んでて良かったって思えるよなぁ〜…」
 銀時は勝手にしゃべり、土方の言葉なんて一切聞いていなかった。
「こんな綺麗な桜が咲いてるのに、シラフなんて無粋だろ?お前も呑めよ」
 そして、銀時はやはり土方に酒を勧めてくる。
 ひたすら、土方の目の前に一升瓶を突き出す銀時。
 たちが悪いったらありゃしねぇと土方は思った。

 酔っ払って、目がトロンと眠そうで、アルコールのせいか頬に赤みが差している。
 普段からしまりの無い顔だが、更にとろけるようにしまりの無い笑顔を土方に向けてくるのだ。

 背後の満開に咲く桜。
 その淡いピンクが、銀髪を引き立て、そして銀時が輝いているように錯角してしまう。

 その瞬間、土方の鼓動が急に大きくなったような気がした。


 何だ?


 土方は、どんどん大きくなっていく鼓動に、身動きが出来なくなってしまう。
 視線が、銀時から離す事ができなくなってしまい…。

 あんなにも賑やかな公園だったのに、何故か銀時の声しか、聞こえず辺りが静かなような気がした。
 むろん、周囲は相変わらず酔っ払いの団体たちで賑やかだ。

「あ。そうか、コップが無いから呑めないのか…すいませんね〜・・・」
 銀時は、土方が一向に酒を飲まないのはコップが無いことが原因だと考えたらしい。
「・・・けど取りにいくの、面倒だな・・・」
 一升瓶片手に、酔っ払った頭で銀時は一生懸命に考える。

「そうか、こうすればいいんだ」

 一体、何を思いついたというのだろうか?
 土方は、銀時から目を離せずにただ見守っていると、銀時はいきなり一升瓶を咥え、酒を口に含み、そして突然に、土方にその酒を口移してくるのであった。

 まさか、こんな飲ませ方をするなんて誰が思っていただろうか?

 片手に一升瓶。
 もう片方の手は、土方の後頭部に添えられ、銀時が土方にむちゅっと、キスをしているのだ。

 銀時のからみっぷりをみかねてコップを持って二人に近づいてきていた新八にだって、予測はできていなかった。


「わぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ、銀さん????」


 新八は慌てて土方に酒を口移しする銀時を羽交い絞めして、土方から引き剥がしてやった。

「銀さん、いくら酔っているからって、何してるんですか!」
 酔っ払いふにゃふにゃになった銀時に、新八は叱りつけ、そして被害者である土方に「大丈夫ですか?」と、声をかける。
 そしてまともな判断ができなくなっている銀時にかわり新八は「すみませんでした」と謝るのだが…。
「…って、土方さん?本当に大丈夫ですか?」

 土方は、顔を真っ赤にして、腰を抜かしたように崩れてしまうのであった。

 いきなり、強制的に酒を飲まされたせいか、顔どころか首も耳も、全身を真っ赤にさせて。

 だが果たして、本当に酒のせいなのか、それとも別の理由なのか…。

 新八は純粋に酒のせいだと思い、そしていきなり男にキスされたしょっくで腰を抜かしたと思い込んでいるようだが…。




 今はまだ、腰を抜かしてしまった本人でさえ、何故こんなふうになってしまったのか理解していないようなので、その意味を知るのはもう少し先のようである。














木村育美様よりお花見小説を頂きました!
春の季節なのでお花見の土銀を見たいなあ〜と思っていた矢先、
木村さんが素敵な小説を書いて下さいました〜!
私の願いが木村さんに通じたんですね!
お花見と言えば、土銀ですよねっ!


木村さん、どうもありがとうございますー!




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