【某ピンクのワゴン車に乗って男女数名で旅をする恋愛観察番組のパロを土銀でやってみよう、の巻。】













坂田銀時は悩んでいた。




度重なる彼へのストーカー行為に、悩んでいるのだ。



彼についているストーカーの数は現在4人。
その人数は、年々増える一方なのである。



一体誰がストーキングしているのかと言えば、彼の友人たち。


彼には親友とも呼べる古い友人が3人いたが、一般的に思春期と言われる年頃になると、その全員が銀時への好意を示してきた。
軽い気持ちで拒否したら見事に全員が銀時の追っかけ・・・ストーカーになってしまった。


それが桂と高杉、そして坂本という名の男たちだ。
彼らと銀時は、幼い頃から同じ学校に通う仲であった。親友として4人で仲良く青春時代を過ごしてきた。
今、高校を卒業したあとは4人とも、別の道を歩んでいる。



桂は甘いお菓子が大好きな銀時のために手土産を携えてやってくる。
最初は手土産欲しさに喜んで迎え入れていたが、桂の口説きがしつこくて相手をするのが面倒になった。
気安い仲だし、まぁいいか・・・と軽く考えた銀時は桂の訪問を無視し始めた。
できるだけ外出したり、居留守を使ったりする。
しかし桂は問答無用に玄関を壊して侵入してくるツワモノだった。
これ以上、玄関の修繕費は払えないし、桂に請求すれば「それならば一緒に暮らせばよいのだ」と意味不明な結論に持っていかれる始末。
常識を持っているようで持っていない、それが桂だ。
常にわが道をゆく彼の相手に、銀時は辟易としていた。




同時期に陰気で粘着質な高杉からも迫られていた。
桂の追っかけから逃げたいあまりに高杉へ助けを求めたら、逆に高杉にまでも好かれてしまったのだ。
自信家で高飛車、そのわりに陰湿な性格の高杉だが意外と寂しがりやな一面もある。
銀時はそんな危うげな彼をからかったり、面倒を見てやったりするのが好きだった。
けれど迫られるなんて、ゴメンだ。
ハッキリ断ったが、諦めきれない高杉は密かにストーカーになった。
人ごみの街中で、気付いたら背後に立たれていた瞬間には、さすがの銀時も鳥肌が立った。
以来、ふとした時に高杉独特の「クックック・・・」という陰湿は含み笑いが聞こえることがある。
あの声は幻聴だと思いたい・・・銀時は常に高杉の影におびえていた。




この事を底抜けに明るい坂本に相談したところ、軽く笑い飛ばしてくれた。
それが銀時の気持ちを和らげた。
きっと一時的なものだと言う坂本の言葉で、鬱々とした気持ちが明るくなった。
坂本に相談してよかった、こいつ頭カラッポだと思っていたけど結構頼りになる。
銀時はそう思い、すっかり坂本に懐いて側に寄り添った。
するとある日、「海外に移住する事にしたので一緒に行こう」と言われた。
何で一緒に?と聞くと「そりゃおんしが好きだからの〜アッハッハ」と当然のように告白された。
今まで散々「男と付き合う気はない」という悩みを相談してきたのに、こいつは一体何を聞いていたんだろう。
そう思うと銀時はがっかりした。
坂本は銀時を捨ててあっさりと外国へ行ってしまったが、今でも度々、銀時に会いに帰ってくる。
今だに銀時を諦めきれないらしい。



銀時はこういった悩みをかかえて青春時代を過ごした。
桂や高杉とは違う道へ進みたかった銀時は、大学受験を止めた。
実のところ、あまり勉強してこなかったという理由も大きい。


そんな彼は、好きなケーキ職人に憧れ、パティシエを目指し料理の専門学校へ進学した。


料理にも分野が色々あってクラスが細かく分かれていた。
これまでストーカーに悩まされてろくに恋愛経験も出来なかった銀時は、この学校でこそ彼女を作るのだと期待していた。


早速そのチャンスが到来した。
実習をきっかけに知り合った同じ学校の女の子が、銀時に好意を寄せてくれた。
モデルかと思うほどの美少女で、スタイルも抜群。
納豆をこよなく愛する彼女の名前は、猿飛あやめ。
可愛いけれど変わった性格の彼女に銀時は戸惑い、交際を断った。
するとやはり諦めきれない彼女はストーカーになって、銀時を追いかけまわした。


そのような状態で当然恋人などできるわけもなかったし、銀時はもう恋愛自体に挫けていた。

「なんか俺、悪いことした?」

思わずいじけて、グスンと涙が零れる。






気の休まることのない日々に疲れ、全てを投げ出して旅にでも出てしまいたいと思っていた。

そんな矢先に、とあるテレビの新番組企画の参加者募集の記事を目にした。


『新番組 ☆恋愛観察バラエティ アイノリ☆
 男女6名(予定)がピンクのワゴンに乗って異世界を旅する番組です!
 カップルが成立したらキスして2人で帰国!
 恋人が出来ない、また恋に挫けてしまったあなたの参加をお待ちしています!
 応募はお気軽にどうぞ!!』



タダで旅が出来て、しかも彼女まで出来たらいいかも知れない・・・。
銀時は何気なく、そのメンバー募集に応募してみた。
とにかく、今のこの現状から逃げ出したかった。

少しでも気分転換になれば儲けものだ、そう思った。









それから一ヶ月後、銀時は空港にいた。


応募が少なかったのか、銀時の素材が良かったのか、あの後すぐに番組スタッフから連絡が入った。
来月出発するというので、ストーカーたちに悟られないよう気をつけながら身支度を済ませた。
今朝もこっそり家を出てきたのだ。



空港にはすでにスタッフや他のメンバーが揃っていた。
男女6人、というだけあって確かに女子が3人、男子が自分以外に2人。
そのうちの一人、明るい茶髪のまるで少年のような男が、銀時に声をかけてきた。


「あんたもアイノリの参加者ですかィ?俺は沖田、これからよろしく」


社交的な少年なのかと思いきや、そう言いながらも視線は手元のPSPに釘付け、挨拶も上の空だ。
なんだこいつ、と思いながらも銀時は一応「あ、どーも」と軽く返事をした。


「あら、あなたもアイノリに参加されるんですか?
 私は志村妙。こちらは幼馴染の九ちゃん。どうぞよろしくね」

背後から優しい雰囲気の、穏やかな声がした。
銀時が振り返るとそこには髪をアップにした綺麗な女性が立っていた。
志村妙は銀時よりも少し年下のようだったが、落ち着いた物腰でにっこりと微笑んでいた。

そのお妙の一歩後ろに、左眼に眼帯をした小柄な少女もいる。
大きな瞳や長い黒髪がとても綺麗だった。
けれどその眼光は鋭く、初対面だというのに銀時をまるで敵のようにきつく睨んでいる。

「僕は柳生九兵衛だ。お前なんかにお妙ちゃんは渡さない」

「まぁ九ちゃん。もしかしたらいい金ヅルになるかも知れない方なのに、そんな口きいちゃダメじゃないの」

「あ、はい?・・・えーと、俺は坂田銀時です・・・よろしく」

にっこり微笑むお妙と、キッと睨む九兵衛にうろたえながら、銀時は曖昧に笑って誤魔化した。


(なんだこの空気・・・なんかおかしいぞ、こいつら・・・!!)


これから長い期間を一緒に旅をしようという仲なのに、それらしい盛り上がりが全くない。
もう少し仲良くなろうとか、テンションあげていこうとか、これからの旅への期待感や一体感がカケラもなかった。
最初っから「お互いのことなんかどうでもいい」・・・そんな雰囲気だ。
息苦しいほどに空気が重たい。
残るほかのメンバーに助けを求め、銀時が視線を走らせる。
するとその瞬間、テンションの高い明るい声が聞こえてきた。

「うっわァァァー!飛行機カッケー!今からあれに乗るアルか!?
 うっわァァァー!早く行くアル!早く早く!私はやく星になりたいアル!!」

大きな窓の外に見える、待機中の飛行機を間近に見て、飛び上がらんほどに浮かれている少女。

「いや・・・星になっちゃマズいんじゃねぇの」

思わずそうツッコむと、飛行機に目を輝かせていた少女が銀時を見た。

「お前もタダで食べ放題遊び放題ツアーの参加者アルか?私、神楽ネ!かぶき町の女王とは私の事ネ!」


「俺は坂田銀時だ・・・っていうかおま、タダで食べ放題遊び放題ツアーって!!
 違うだろ、恋愛しに来たんだろ、このメンバーで!!!」

このメンバー、と言ってからふと、改めて周囲のメンバーを見渡す。
初対面から目も合わせずゲームしている沖田、笑顔で人を金ヅルと言ったお妙、
いきなり怒っている九兵衛、そもそも趣旨を理解していない上に色気のカケラもない神楽。

(恋愛どころか、友達にもなれそうにねー・・・なんだこの集団は・・・何しに集まったワケ?)


そこで銀時はふと気付いた。


「あれ、一人足りなくねーか」


きょろきょろと辺りを探していると、お妙が「あそこに一人」と待合室の長椅子を指差した。

確かにそこに一人、仏頂面で雑誌を読んでいる若い男がいた。
全身黒い服を身にまとい、陰気な雰囲気がした。

背格好は自分と似ている。
太ってはいないが痩せてもおらず、運動でもしているのかほどよく筋肉がついているのが衣服の上からでも分かる。
空港の低い椅子のせいで、組んだ長い足が邪魔になり雑誌が読みにくそうだ。

その男は整った顔をしている。
いかにもモテそうな外見に、銀時は面白くない気持ちがした。
別に何かを競っているわけでもないが、ライバル心を煽られ、思わず睨んでしまった。


銀時の視線に気付いた男が顔を上げた。
互いの視線が重なる。
男の視線は想像以上に鋭く瞳孔が開いているかのように挑戦的だった。
まるで獲物を狩る鷹のような視線を向けてくる。
あまりの愛想の無さに驚き怯んだが、銀時は負けるものかと視線を外さずに耐え、じっと睨み返した。
空港のロビーの、銀時とその男の間にだけ一瞬緊張感が高まった。
男は目を細め、何ごともなかったかのように再び雑誌に視線を落とす。

「なに、あいつ」

初対面でまだ会話もしていない、そもそも名前すら知らないというのに、いきなり嫌いになってしまった。


銀時はこの旅の行く末が思いやられるような気持ちで一杯になった。







スタッフに誘導されて、銀時一行は小さな飛行機に乗せられた。
定員は20名ほどの、チャーター機のようだ。
参加者もスタッフも機材もいっぺんに押し込まれた。

「ちょっ、狭いし小さいし・・・何この飛行機?こんなもんで海外行けんのか?つーかどこ行くの俺ら」

窓際に座った銀時が不安げに言うと、隣に座ったお妙が驚いた。

「どこに行くか知らないんですか?資料もらったでしょう?」

「そう、だっけ?」

「先ほどスタッフから説明もありました」

「あー、そん時は俺トイレ。で、どこ行くんだ」

反省の色もない銀時の様子に溜息をついたお妙が、静かにこう言った。

「海外じゃありません。江戸です。大江戸に行くんですよ、私たちは」

銀時はその言葉の意味がわからず、眉間を寄せる。
その瞬間に飛行機が動き出した。ゆっくりと滑走路まで移動していく。
銀時の後ろから神楽の「キャッホオォウ!」というテンションの高い歓声が聞こえる。
滑走路に入った飛行機が次第にスピードを上げて疾走する。

「凄いネ!速いアル!うおっ・・・飛ぶ?もう飛ぶアル!?」

「うるせーガキだなァ、少し黙ってられねーのかィ」

神楽のはしゃぐ声の後に、同じく銀時の後方の座席から沖田のダルそうな声が聞こえる。

「なにアルかお前・・・!!」

「・・・!」

ゴゴゴゴゴッ
神楽がけんか腰で言い返していたが、次第に大きくなるエンジン音で何を言っているのか聞き取れない。

加速する重力によって座席に身体を押し付けられた妙が苦しげに吐息を漏らすので、銀時は気を使って「大丈夫か」と声をかける。
お妙はにっこりと微笑んで「えぇ」とだけ答える。
その表情や仕種がしとやかな女性らしく見え、銀時は第一印象の悪かったお妙を見直した。

(お?もしかしていい女なんじゃねーか、こいつ)

一瞬だがお妙に胸を高鳴らせた銀時が顔を上げると、前の席にいた九兵衛が片目ながら冷たい目で睨んでいた。

「・・・お前、妙ちゃんに馴れ馴れしくするな」

えええ!あれェェェ?
ものっそいストレートな嫉妬なんですけど。
こいつら女同士じゃなかったっけ。
コレ、男女で恋愛する企画番組なんじゃなかったっけ。
ていうか後ろ向いててG辛くね?


銀時は呆れて半眼になり、「はは・・・」と九兵衛に力なく愛想笑いを返した。
後方ではいまだに神楽と沖田がぎゃあぎゃあと口喧嘩を繰り広げているようで、飛行機の中が必要以上に騒々しい。

(こりゃ大変な旅になりそうだ・・・どうなっちゃうの、俺・・・)

銀時はふかぶかと溜息をついた。





そしてアイノリメンバー一行を乗せた小さな飛行機は最大加速した勢いで機首を上げ、大空へと飛び立った。










★補足
番組表記がカタカナなのは検索避けです^^




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