翌日、ピンク色のワゴンに乗って一行は移動していた。
席はまたお妙と九兵衛、沖田と神楽、そして土方と銀時に分かれた。
打ち合わせてそうしたわけでもないのに、全員で一気に乗り込むと何故か自然とこうなってしまう。
「なんでまたお前が俺の隣なんだよ!」
銀時が土方を睨みつけるが、土方は「ここしか空いてねーからだ」と平然と答えた。
昨晩から散々悩んでいる土方であったが、銀時の前では悩む素振りは見せないように心かげていた。
ワゴンは今日の目的地に向かって走り出す。
他のメンバーは昨晩の祭りの興奮も冷めやらぬ様子で、談笑していた。
ただし、土方と銀時だけはじっと無言で座っている。
銀時も最初の頃はよく知りもしない男同士、狭い車中で肩を寄り添わせて座ることに違和感があった。
けれど今では、銀時が思い切りもたれかかっても肩を借りて居眠りしても遠慮する必要のない土方の存在に、不思議な安心感を覚えるほどになった。
銀時は無意識に土方の方へと体重をかける。身体を預けることにも慣れてしまった。
そして何気なく土方の横顔を見つめる。
動くたびに彼の黒髪がさらさらと揺れる。
清潔感のある身なりに、引き締まった身体。
そして整った顔に、涼しげな目元。
土方の姿を上から下までじっと見つめた銀時が、周囲に聞こえないように小声で彼の耳元に囁く。
「・・・なあ、お前、まだお妙のこと諦めてねえの?」
その声にゆっくりと土方が振り返ると、銀時の視界には土方の顔以外に入らないほどに距離が近かった。
銀時は慌てて身体を離し、今度は土方とは逆の窓枠にもたれかかる。
「悪いか。俺には諦めちゃなんねー理由があるんだよ」
「ふぅん、随分とご執心なんだね」
茶化すように笑うと、土方は深い溜息をつき、瞳を閉じて頷いた。
「・・・そうだ・・・もう手に負えないくらいに、惚れてんだよ」
近藤がお妙に、という意味であるのだが、その真相を知らない銀時は、途端に気分を害した。
自分が振った話題な上に、返答も予想どおりのものだ。
しかしそれをはっきりと言われてしまうと、辛くなる。
銀時にも何故自分が気分を害するのか、理由が分からない。
しかし、祭りの夜に感じたように、胸の奥にずっしりと重く苦しい感情がつかえているのを感じた。
怒りと切なさと空しさが、同時に湧き上がる。
『手に負えないほどに惚れている』 ・・・
銀時にとってその一言のショックはあまりにも大きかった。
そんな自分が自分でも変だと思い、何故なのか考えずにはいられない。
(クソッ・・・何だよ!何だってんだよ!どうしてこんな惨めな気持ちにならなきゃいけねーんだ)
そして銀時は、自分の中に芽生えはじめた土方への気持ちに気付きはじめた。
(まさか、まさか、まさか・・・俺・・・ええええええええ!!?)
この重苦しい感情は何なのか、この寂しくてやりきれない感情は何なのか。
考えれば考えるほどに、はっきりとその気持ちは明確な形を持ち始める。
(土方のこと・・・を・・・?)
笑っていた銀時の表情が途端に曇ったことに気付いた土方が、不思議そうに銀時の顔を覗き込む。
それと同時に、右手で銀時の頬にそっと触れる。
「・・・どうした?気分でも悪いのか」
土方の指先が銀時の頬に触れた瞬間、銀時は顔を真っ赤に染めて、その手を払った。
「な、何すんだっ」
「ああ悪ィ、車酔いでもしたのかと」
土方は払われた手を所在なさげに引いて、自分の膝の上に戻す。
様子のおかしい銀時を気にして何度か横目で視線を送るが、銀時は口を尖らせてむくれたままだった。
(何を怒っていやがるんだか、話にならねえな)
土方はそっと溜息をついて、正面を向く。
銀時はしばらくの間、むくれたまま土方の横顔を見つめていた。
一度その顔を見つめると、視線が吸い込まれるようで目を離せない。
(やべェ・・・意識すればするほど、ドキドキする・・・なんか胸が痛い)
お妙や九兵衛にアッサリと振られた時なんかには比べ物にならないほどに大きな失恋の哀しみが、銀時を襲った。
(マジヤバいって・・・もう、知らねえ・・・なるようになれだ)
この江戸に来る時にも、飛行機の中で「なるようになれ」と腹をくくった。
しかしこのような方向になってしまうとは、思いもしなかった。
銀時は土方の肩に頭を乗せて、いつものようにもたれかかる。
少し乱暴に、ゴツンと体当たりをした。
「寝るのか」
土方が驚くわけでもなく、当然のように肩を貸す。
「ん・・・少し」
(こんな気持ちのまま眠れるわけねーだろボケ!!)
勝手に逆ギレしながらも、銀時はギュッと目を瞑った。
一方土方は、銀時が懐いてもたれてくることが嬉しかった。
こういう時間をとても嬉しく思っている自分に気付いたのも、今日が初めてだ。
柔らかな銀時のくせ毛がそっと自分の頬を撫でることすらも愛しい。
(オイオイ、ちょっと待て十四郎・・・おかしいだろ、冷静になれ)
一瞬胸を高鳴らせては、小さく首を振って意識を保つ。
銀時が目を瞑っているのをいいことに、その顔を間近で眺める。
キメ細やかで真っ白な肌、長い睫、柔らかそうな唇。
(男のくせに無駄に綺麗な顔してやがる・・・)
先ほどはその白い頬に触れて手を払われてしまったが、やはりもう一度触れてみたい。
土方は銀時を起こさないように、そっと手の甲で頬を撫でる。
(やっぱり女の感触とは違う・・・けど、それなのに、どうしてこんなに触り心地がいいんだ?)
銀時の白い髪に顔をうずめて、土方の鼓動は速くなる一方だ。
(そういやストーカーに悩んでるっていったっけな・・・こいつに夢中になる気持ち、分からないでもねえな)
起きている時のへらず口には辟易としたが、大人しく眠る顔は誰が見ても美しいと思うだろう。
このような隠れた魅力を持っていることに気付いた者なら、執拗に追いかけるストーカーになってもおかしくない。
そしてその見たことも無い銀時のストーカーに、土方はまた嫉妬の念を抱いた。
(誰にも、渡したくねェ・・・)
土方は銀時の髪に顔をうずめて、瞳を閉じた。
無意識のうちに、土方は本気になっていた。
土方自身も今まで経験したことのないほどに、恋しく切ない気持ちになる。
これが恋というものかと、土方は漠然と思う。
眠ったフリをしていると土方が自分の頬に触れたり、髪に口付けるようなことをするので、銀時は驚いていた。
顔が熱くなって、きっと頬が赤くなっているだろうし、緊張して全身どっと汗をかいていた。
別に深い意味などないのだろう。
土方はお妙に「手に負えないほど惚れている」のだから。
(なんだコレ。何でこんな事するんだよ・・・)
銀時は突然悲しい気持ちになった。
目頭がじんわりと熱くなってきたので、銀時はさらに力をこめて固く目を瞑った。
そして、自分が本気になっているのを改めて感じて、情けなくなっていた。
(ていうかどーしてこんな男に惚れてんだろ、俺・・・)
固く閉じた瞳から涙は零れなかったが、かわりに鼻水が出てきて、銀時は土方にバレないように小さくすんと鼻をすする。
当然、銀時にばかり関心のある土方が、鼻をすする仕草に気付かないわけもない。
(風邪か・・・眠ったら身体冷えるしな・・・)
土方はそっと自分のパーカーを銀時の肩にかけてやった。
銀時は突然上着をかけられたことに驚いたが、自分が鼻をすすっていたせいだと気付くと、また悲しくなった。
土方が自分に注目してくれることに胸が熱くなる。
しかしそれは、銀時の求める気持ちとは違うのだ。
(別に寒いわけじゃねーよバカ!テメーの所為で泣いてんのに!だからどうして・・・そんなに優しくするんだよ!)
気遣われて嬉しい気持ちと、それでも想いが届かない寂しさに、銀時は涙を零して泣き出したい気持ちで一杯だった。
しかし絶対にそんな格好の悪いことは出来ない。
眉間にシワを刻んで、銀時はそれをぐっとこらえた。
二人の思惑が交差し、すれ違う。
気持ちが重なることはなかった。
土方と銀時が無言で二人の世界を作り上げている間、事態に気付いたメンバーの面々はじっと二人の様子をうかがっていた。
それぞれが、小声でヒソヒソと噂話をする。
「あのマヨ、やけに銀ちゃんに優しいネ。怪しいアル!てゆーかキモいアル!」
「あぁー、もうありゃダメだな、土方さんは旦那にゾッコンだ。ホラ見てみな、鼻の下伸ばしてやがる」
「なあ妙ちゃん、僕は銀さんが受けだと思うんだ。やけに乙女だからな」
「そうかしら?土方さんは流されやすい感じだから、押しの強い銀さんが攻めると思うんだけど」
そんな様子の一部始終を、ワゴン車内に固定されたカメラが記録し、全国ネットですでに放送されているのであった。
大半の視聴者は二人の恋をの行方を楽しみに見守り、応援している。
現在の土方と銀時は、ワゴンのメンバーや番組の視聴者のオモチャでしかない。
そんなことは、当然二人とも知る由もない。
○月×日 坂田銀時
ヤバイってコレマジヤバイ。どんぐらいヤバイかっていうとマジヤバイ・・・!
○月×日 土方十四郎
愛の戦士マヨラ13がいたら、助けてほしいぜ。もう止まれそうにねェ・・・!
その夜、夕飯の最中にスタッフからメンバー全員に話があった。
話の内容は、メンバーを増やすという知らせだ。
すでにアイノリは全国ネットで放送を開始しているのだが、何週たっても一向にカップルが生まれない。
これでは番組として盛り上がらないのだ。視聴率が落ちたらすぐに打ち切りにされてしまう。
テコ入れの意味もあり、新メンバーを入れることになったのだった。
今までは男3人、女3人という比率であったが、やはり男子が多い方が女子の奪い合いになって盛り上がると踏んだ。
新メンバーは男子3名に女子1名と、一気に大増員することに決まった。
これから参加する新メンバーの彼らは放送中の番組を見て、熱烈なファンになった。
是非旅に参加したいと、直接テレビ局に連絡してきたという。
参加させなければ爆弾をしかけると、テロリストまがいのことまで言い出す過激な若者もいた。
局のプロデューサーは「面白い冗談を言うもんだな」と思い、番組を盛り上げる為に採用した。
新メンバーは2、3日中にこちらに到着するらしい。
銀時はその話を聞いて嫌な予感がし、背中がぞくぞくとした。
「男が3人・・・女が1人・・・」
それは銀時のストーカーたちと同じ構成だ。
銀時の顔色が悪くなっていく。
「あの・・・名前・・・分かる?」
思いつめた表情の銀時は、祈るような気持ちでスタッフに名前を聞いた。
スタッフの教えてくれた名前は「桂、高杉、坂本、猿飛」、まさにストーカーたちそのものだった。
「し、信じられねー!マジで追っかけてきやがった!!」
銀時は勢い良く立ち上がった。
「あっ?どしたアル銀ちゃん!?」
「銀さん?」
神楽やお妙たちが声をかけたが、銀時は黙って夕食の席から離れ、自室へと戻った。
部屋に着くと、自分のカバンをひっぱり出して、荷物を片付け始めた。
そこへ、銀時のただならぬ様子を心配した土方も、夕食を切り上げて部屋に戻ってきた。
「おい、どうした。荷造りなんかして・・・新メンバーがどうかしたのか?」
「ああ、新メンバーは全員俺のストーカーだ。こんな異世界であいつらに囲まれたら、もう逃げ出せない・・・だから、あいつらが来る前に俺は帰るよ」
「帰る・・・!?リタイアするのか?」
「ああ、残念だけど仕方ねーな」
銀時は自分の言葉に、ハッとして、土方を振り返った。
(そうか、土方とも最後になるんだ・・・)
一刻も早く逃げ出そうと荷物をめちゃくちゃにカバンに詰め込んでいたのだが、土方の声を聞いて、次第に冷静さを取り戻した。
銀時は呆然としている土方の姿を見つめながら、諦める覚悟を決めた。
せっかく本気で好きになった人ではあったが、失恋しているし、何しろ男同士でもともと脈もない。
銀時は寂しげに微笑んだ。
一方土方は、突然のことに頭パーンとなりそうなほどに動揺していた。
近藤に頼まれてお妙を連れ戻しにやってきたところで、不意に銀時に恋に落ちてしまった。
自分勝手な言い分ではあるが、銀時を誰にも渡したくないとまで想っている。
この気持ちはもう誤魔化せない。
切羽詰った事態になっているのだ。
ここで引き止めて、銀時をストーカーたちに渡してしまうことになったら、自分は一生悔やむだろう。
だからと言って、1人で逃げ帰る銀時を見送るなんてマネはできない。
帰ったあと、また会えるとは限らない。
このまま銀時と離れてしまい、会えなくなったらそれこそ悔やんでも悔やみきれない。
今は絶対に銀時を手放すわけにはいかない。
そう確信した瞬間、土方は衝動的にその場から走り出していた。
土方が突然、バンとドアを開けて走り去ったので銀時は驚いた。
「な、なんだよ・・・引き止めてもくれねーのかよ!」
銀時はさらにムクれて、ことさら乱暴に荷物をカバンにねじ込んだ。
土方が息を切らせて駆け込んだのはスタッフルームだった。
「すいません、俺、告白します!だからチケットよこせ!早く!!」
アイノリのルールでは、告白するときは必ずチケットを受け渡すことになっている。
当然航空券など事前にあるわけもないので、撮影用のチケットだ。
番組の象徴であるピンクのワゴン車の運転手からそれを渡してもらうという約束だ。
それを持って告白し、相手に帰国用のチケットを渡す。
告白された者は一晩じっくり考えて、翌日に答えを出す。
非常にまわりくどいルールではあるが、番組としてこういった儀式がないと盛り上がりに欠けるのだ。
番組スタッフも「ついに来たか」と大喜びで告白のセッティングをはじめる。
とても大事なシーンなので、ロケーションも大事だ。
わざわざ屋外で夜景の美しい場所に椅子を置き、カメラをしっかりセットして、そこで告白させる。
土方をそこで待たせて、スタッフが相手を呼びに行く。
その御指名に上がったのが女子メンバーではなく、銀時だったので、スタッフ一同に不安がよぎった。
『では、あちらに行ってください。』
そう言われてスタッフに夜の屋外に連れ出された銀時は、機嫌が悪かった。
ストーカーたちがここへ到着する前に、一刻も早くリタイアしたいし、土方は引き止めてもくれなかった。
面白いことなど何もない。
この忙しい時に何故か自分だけ外へ連れ出されるなんて一体何をさせる気だ、とブツクサ文句ばかり呟いた。
スタッフに指定された場所に近づくと、椅子に座った土方がいた。
「・・・何してんだ?」
銀時がキョトンとしながら声をかける。
隣に空いた椅子がひとつあるので、銀時は何気なくそこへ座った。
ちょうど江戸の夜景が美しく見える高台だ。
銀時は煌々と光るターミナルと、美しいたくさんの星、そして眼下に広がるネオンの町並みを目に焼き付けた。
(これ、もしかしたら土方が、俺に最後の思い出作りに夜景を見せてくれたのか?)
隣に座る土方も、じっと前の夜景を見つめている。
何も言わない、その空気が銀時も嫌ではなかった。
静かな夜の闇、美しい光の洪水をうっとりと眺めて過ごした。
しばらくは、二人きりでじっと黙って夜景を見ていたが、次第に手持ち無沙汰になってくる。
こうして二人で会話をするのも最後になる・・・そう思うと何か言っておきたくなるが、こんな時に改めて何を話したらいいのか分からない。
銀時はそわそわと落ち着かなくなり、視線をあちこちに走らせたり、足元にある石ころを蹴飛ばしたりしていた。
そうしているうちに、ようやく土方がゆっくりと口を開いた。
「・・・なあ、本当に帰るのか」
思いつめたような口調だった。
まさか土方がそんなに深刻になっているとは思いもせずにいた銀時は、驚いて隣を振り返った。
「あ?ああ・・・明日リタイアするわ」
ただならぬ様子を感じ取った銀時は、気を使うように小さく微笑んで話した。
「明日か・・・」
「多串君には世話んなったな。けっこう、楽しかったぜ」
先ほどまで引き止めてすらくれなかったとヘソを曲げていた銀時であったが、今になって土方が別れを惜しんでいる様子なので、少し嬉しくなった。
礼のひとつでも言っておくか、と明るく答える。
一方、告白しようと覚悟をきめてきた土方は、今だにその言葉に迷っていた。
今の自分に、銀時との脈があるとは思えない。
本気なだけに振られた時のショックも大きいだろう。
何よりも近藤からの任務もある。それを投げ出す覚悟もしなくてはならない。
いろいろと悩むことが多い、がしかし、その全てを覆すほどに、自分は銀時を欲している。
ここでやることは、ただひとつだ。
意を決して土方はポケットからチケットを取り出した。
「・・・これを・・・っ」
銀時の前に、チケットを差し出す。
そして、受け取るように視線で促す。
「俺に?」
銀時は目を丸くしてチケットと土方の顔を交互に見る。
そして胸の前に差し出されたチケットを、おそるおそる受け取る。
「どうせ帰るんだろう?それなら俺と・・・いや、別に、ついでとかじゃねえぞ!
・・・だから、その・・・俺は本気だから・・・これを、受け取ってくれ」
土方は顔を真っ赤にしながら、早口でまくし立てるようにそう呟いた。
言いたいことはたくさんあるのに、いざとなると混乱してしまい、何を言っているのか自分でも分からない。
「土方・・・俺は・・・」
銀時が神妙な口ぶりで名前を呼ぶと、土方は反射的に椅子から立ち上がった。
「返事は明日でいい・・・!!」
顔を熱くしながら、土方は銀時を見下ろした。
銀時の白い肌は夕闇に美しく溶け込み、光のあたる部分はさらに白く滑らかに映える。
自分を上目遣いで見上げる銀時の瞳に、薄い涙の膜が張っている。
潤む瞳に、土方は吸い込まれそうになった。
切ないほどに愛しい彼をきつく抱きしめて、奪い去ってしまいたい衝動が眩暈となって土方を襲う。
これ以上銀時の側にいたら、自分を抑える自信がない。
「・・・呼び出して、悪かった・・・じゃあな」
土方は言うべきことは言ったと、その場から逃げるように早足で去った。
あとは銀時が出す結論次第だ。
乱暴な仕種で椅子から立ち、さくさくと大股で歩き去っていく土方の後ろ姿を、銀時は泣きそうな気持ちで見つめていた。
「なんだよコレ・・・わざわざスタッフからチケットもらってきたってのか・・・早く帰っちまえってこと?」
まさかこれが番組の決めた告白の儀式なのだとは思いもしない銀時は、土方の行動を勘違いしていた。
土方が自分へ告白するなどとは想像すらできないのだから、当然渡されたチケットの真意にも気付かない。
一刻も早く銀時を追い返すために土方がチケットを渡してきたのだと、そう解釈してしまった。
引き止めもしないし、別れを惜しむこともされなかった。
銀時はがっくりと落ち込み、何もかもがどうでもよくなった。
さきほどまで美しく見えていた夜景も、今ではまったく違う暗い雰囲気をまとって見える。
それどころか華やかな景色が一転し、憎たらしくもある。
銀時の目にうつる光の粒は、胸にうずまく哀しみが増すと同時に次第にぼやけて、ついには見えなくなった。
○月×日 土方十四郎
ついに告白した。
銀時の気持ちは分からない。きっと驚いているだろう。
これほど明日の朝が恐いと思う夜は、後にも先にも二度とない気がする。
○月×日 坂田銀時
今日は踏んだり蹴ったりだった。
この旅でいいことなんか無かった。
あーもーマジ、はやく帰りてえ・・・!!