*****高校生日記*****
「ね、土方クン。受験勉強で忙しいだろうけど、1日でいいから夏休みにデートしない?」
受験を控えた高校3年生の俺を、大学生になったパー子先輩はデートに誘ってくれた。
先輩・・・いや、パー子さんは俺の自慢の美人な彼女。同じ高校のOGにあたる。
「もちろんです、パー子さん!俺、いつでも大丈夫ッス!」
俺が一方的にパー子さんを口説いて、仕方なく付き合ってもらっている。
だから彼女には頭が上がらない。
「じゃあお盆の時期に、お台場デートね!」
「分かりました!!」
お台場でデートなんて、ものすっごく恋人同士っぽいぜ!
映画見たり、ショッピングしたり、観覧車乗ったり、あわよくばその後・・・?
気持ちが盛り上がりすぎて、受験勉強に身が入らない。
何しろパー子さんからデートに誘ってくれたのは初めてだから。
デート当日にパー子さんが連れて行ってくれたのはお台場ではなかった。
お台場・・・の近くにある、なんとか展示場っていうデカい建物。
夏の炎天下の中、汗だくの人間がぞろぞろと集まり巨大な列を成して建物に吸い込まれていく。
「人がゴミのようだ!」
パー子さんがそう高らかに言ってのけたが、俺には意味がよく分からない。
建物の中に入ると広くうす暗い場所に、長い会議机が無数に並べられており、なんだか迷路みたいだ。
「土方クン、ココが俺のスペースだから覚えておいてね」
「スペース?」
俺が呆然としているとパー子さんから指示が飛ぶ。
「あのダンボールをここに持って来い!全部だ!」
「は、はい!?」
ダンボールに何が入っているのか知らないが、異常〜に重い。
しかも6箱もある。
「こういう時に男手があると助かるな。ありがと☆」
パー子さんの笑顔と大きな胸の谷間に癒されながら、俺はパー子さんの指示のまま働いた。
どうやら、これはデートなんてモンじゃないらしい。
そう気づいたのは、パー子さんが俺にくれた衣装を受け取った時だった。
「着替えて来い」
パー子さんは笑顔でそう言った。
でも目が笑ってない。ギラリと光る肉食獣の目だ。
その迫力は凄まじく、俺には逆らうなんて選択肢はなかった。
更衣室で広げてみると、それは黒いメイド服だった。
パー子さんの手作りのようで、一見するとちょっとカッチリとしたどこぞの制服のアレンジに見える。
サイズもちゃんと俺が着られるようになっていて、パー子さんの愛情を感じた。
でもスカートだ。フリフリフリルの一杯ついた、可愛いスカートだ。
「何で俺がこんな格好を・・・」
ついでに黒いネコミミとシッポも付いていて、正直泣きそうになった。
いや、ちょっと泣いていたかもしれない。
躊躇っていたがパー子さんを悲しませたくなくて、俺は思い切ってメイド服を着た。
今この瞬間に、俺の中で何かが終わったような気がする。
絶望した面持ちでパー子さんへお披露目すると、パー子さんは飛び上がって喜んでくれた。
「かッわいいいいいいいい!」
うっとりとした目で俺を見るパー子さん。
今までそんな風に見つめられたことはないので、照れてしまう。
スカートなんか履いたことがないので、足元がスースーして心もとない。
「あ、あの、こんな格好でイイんですか?」
「いいよいいよ、よく似合ってる!かーわーぅいーぅいー!」
パー子さんが絶賛しながら、手元の重たいダンボールをこじ開けた。
そして中につまっていた薄い本(この重さは本だったのか!)を取り出す。
「コレ夏コミ新刊!土方クン総受け!ネコメイドの土方クンが、みんなに×××されて×××・・・」
パー子さんが後半何を言っていたのかよく聞き取れなかった。
聞きたくなかったので耳が勝手に蓋をしたのかもしれない。
キラッキラの表紙には、俺が着ている衣装と同じ格好をした黒髪の男(多分)の乱れた絵が載っている。
これは断じて俺じゃない。俺じゃない・・・筈だ。
思わず目も閉じた。シャッターを下ろすように瞼が勝手に降りてきたのだ。
俺の理解を超えたところで世界は動いているんだなァ。ふふ・・・。
またちょっと、泣けてきちまったぜ。
パー子さんの指示のとおりに本を売り捌いた。
これまたよく売れる。客は女ばっかりだ。
俺の汚いメイド姿を見て、信じられないことに黄色い歓声が起こったりもする。
一体こんなもんの何が面白いんだお前等ァァ!!
俺の心の叫びは、このでかい建物のどこかに消えていった。
空しいっていうのは、このことだろう。
必要以上に疲れて疲れて仕方がなかった。
「あのパー子さん、俺のこと、ホントに好きですか?」
嵐のような一日が過ぎ、帰り道で俺は思わず問い質してしまった。
確かに無理やり付き合ってもらっているわけだが、それにしてもこれがデートだなんて思えない。
ていうか女装ってどういう事だ。
「勿論、好きに決まってるだろ!」
パー子さんは真剣な顔で力強く頷いた。
その答えが嬉しかった反面、あまりにも意外で俺の瞳孔が全開する。
「いいかお前!本気で愛してなきゃこんな事は出来ねーぞ!?
今日のために俺は何週間も寝ずに原稿やって、バイト代全部つぎ込んで本作って、全力で買い物して、もう俺の部屋はお前の本ばっかりなんだからな!これを愛と言わずに何と言うんだコルア!!」
「本気で・・・愛・・・っ!?俺のこと愛してくれてたんスか!」
「当たり前だろうが!もうずっと前から、お前を見るとキュンキュンするんだ!
萌えが、萌えが抑えきれないんだ!だから来週は大阪行ってくる!!」
「最後がよく分からねーけど、愛されてるのは分かりました!
俺ッ、パー子さんの愛を疑ってすいませんでしたァァァ!!」
「分かればヨシ!この調子でトップオブ受けを目指せよ!お前の売りはエロさだからな!」
「やっぱ最後がよく分からねーけど、パー子さんが愛してくれるなら俺、頑張りますっ」
パー子さんはその夜、俺のためにスケッチブックにエロいホモ絵を描いてくれました。
なんかよく分からないけど、それが腐女子にとって最高のサービスであり愛情表現らしいです。
なんかよく分からないけど、だったら大事にしとこうと思いました。
なんかよく分からないけど、やっぱりちょっと視界がうるうると霞みました。
・・・アレ作文?
おわり。
20090817
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