*** 高校生日記 ***


※土銀・学生結婚&妊娠編。イロモノ度が強いので苦手な方はご注意下さい!






クラスメイトの土方十四郎と坂田銀時は非常に仲が悪い。
銀魂高校中で最も犬猿の仲であると有名だ。
声が枯れるほどの怒鳴り合いは日常茶飯事で、その次は決まって取っ組み合いが始まる。
感情任せの二人のレベルは小学生以下とも言っても過言ではないほど低俗だ。

二人はいわゆる、似たもの同士。
傍から見ればぴったりと息が合っているのだが、本人たちにとっては同属嫌悪となるらしい。お互いに相手のやる事成す事が自分と被っていて、気に入らない。
まるで試合開始を告げるゴングが鳴ったのかの如く突然始まる二人の喧嘩を、最初の頃は周囲が必死に仲裁した。
しかし大して効果もなく、自然に落ち着いたかと思いきやすぐに次のゴングが鳴る。
派手に罵るが、それほど深刻な事態ではないらしい。関わっても疲れるだけだ、そう言って誰もが喧嘩の仲裁を放棄した。

誰も止めないので二人は喧嘩を売り放題、買い放題だ。
気が合わないのなら距離を置けばいいものを、わざわざ相手の元へ悪口を言いに行く。
むしろ、仲が良いのではないか。
そう冷やかされて顔を赤くした二人の、レベルの低い貶し合いがまた始まる。


本人たちいわく非常に仲の悪い二人は、1年も2年も同じクラスだった。
2年と3年の間にクラス替えはないので、当然このままだと3年間同じクラスになる。
これが二人の腐れ縁というものかもしれない。


ところが喧嘩三昧の日々という事態が一変する、大事件が起こった。
その事件は誰にも気付かれないまま密かに進行し、発覚したのは3年生に進級した春になってからだった。



あの坂田銀時が、身篭ったと言う。


本人がそう言っているし、報告を受けた担任は戸惑いながらもそれを認めた。
すぐに学校中に銀時の噂が流れたが、信じる者は殆ど存在しなかった。そんなの嘘に決まっている。

しかし机に向かって体を丸め、休み時間すらもじっと動かずにいる銀時の様子は明らかに普段と違う。
身篭ったという自らの腹部を大切に抱えているのか、単に体調が悪いだけなのか分からない。
試しに誰の子かと問えば、銀時は眉間に深いしわを寄せるだけでだんまりを決め込む。

銀時がおかしい、まさか本当に妊娠したんじゃないか。
今まで誰もが冗談だと思っていた噂話が、真実味を帯びて囁かれる。

次に当然気になるのがその相手が誰なのか。銀時を中心に学校中は異様な雰囲気だ。
誰もが銀時に問い詰めたい事柄が山のようにあるが、聞いてはいけないような深刻さに押し返され遠巻きに見守るばかり。
妊娠が本当であるなら、共犯者がいるはずだ。そう緊張するクラスの中で一際、様子のおかしい生徒がいた。

土方十四郎、その人だ。

いつも銀時と取っ組み合いの喧嘩をしていたはずが、新学期が始まってからは、言い争うことすらしない。
銀時の身体を気にしているらしく、触れる手も壊れ物を扱うかのように優しい。
一方その銀時も、土方に触れられる事を自然と受け入れ嫌がらなかった。
寄ると触ると派手な喧嘩ばかり見ていたクラスメイトにとっては、それはまさしく異常な光景だ。

いつの間にか土方と銀時の間に芽生えた、男同士の熱い友情。喧嘩友達が体力的に弱っているから、情が移ったのだろう。そう噂されていた。
まさか犬猿の仲と有名な二人が、それ以上の深い関係を持つなどとは、到底考えつかないほど飛躍した話だ。


ある日の授業中、相変わらず顔色の優れない銀時が突然席を立った。
俯いた銀時は何も言わず、教師の許可も得ないまま、口元を抑え足早に教室を出ていってしまった。
一体何ごとかと教師を始めクラス全員がその様子に注目し、授業は中断された。
ざわざわと落ち着かなくなった教室で、遅れて土方も立ち上がり言った。


「すいません、あいつ最近つわりが酷くて・・・俺、見てきます。大丈夫ですから、授業を進めて下さい」


教壇に立つ教師にそう告げて、土方も銀時の後を追う。

最近の土方が銀時の身体を心配しているのは、誰の目にも明らかであった。
しかし彼の為に授業を放棄してまで駆け寄る必要があるのだろうか。
この場合ならば、土方ではなく教師か保健委員、または学級委員などが妥当だろう。
そうはさせない確固たる意志のある土方の言動。


彼が銀時の代わりに謝る様子は、もはや他人のそれではない。


それまで浮き足立っていた教室中が、土方が出て行った後は水を打ったように静まり返った。

おかしい。あの土方は、どう考えてもおかしい。



クラス一同は心の中で、こう思った。



−−−−− 犯人はお前か!土方アアァァァァァ!!






それを機に銀時の子供の父親は土方であると学校中に知れ渡った。
「まさか」の噂が「やはり」に変わるだけの事で、もはや噂を疑う者はいない。
本人たちは隠しているつもりらしいが、既に学校中で二人は公認の仲だ。

銀時は学校の問題児ではあったが、明るく人懐こい彼を悪く言う者は誰もいないほど人気がある。
密かに恋心を抱いている生徒も少なくない。その嫉妬の矛先は全て土方に向かった。

クラスメイトの沖田は、土方の携帯電話に大量のスパムメールを送りつけ、
学級委員の桂は毎日毎日、土方の背中に「バカ」と書いた紙を張り続け、
隣のクラスの高杉は、友人の万斉と共に何度も闇討ちを仕掛け、
富豪の坂本は誰よりも早くベビーカーや哺乳瓶、衣服など贈り、まるで坂本の方が父親気取りで、土方を苛立たせた。


実は土方と銀時は密かに、かなり前から恋仲であった。
喧嘩などコミュニケーションの一環。そうして二人なりに他人からは分かりにいくい愛を、乱暴にかつ大切に育んでいた。
まさにラブアンドバイオレンス。俗に言うケンカップルだ。
それでいて将来は銀時と結婚を・・・と夢を描いていたのだから、妊娠というチャンスを逃す手はない。
5月で土方は18歳になった。10月になれば銀時も18歳。
それを待って籍を入れよう。そうすればいよいよ銀時の全てを手に入れられる。
薔薇色の未来の為にも、母子を守り抜くのが自分の役目だ。土方は愛情と使命感に燃えていた。



太陽の眩しい季節。蝉が鳴き始める頃、銀魂高校は夏休みに入った。

胎内の赤ん坊が小さいのか、そうとは見えない体型のまま銀時はいよいよ臨月を迎えた。

夏休みのおかげで出産の為だけに学校を休まなくて済む。
銀時がドコからかぽろりと産み落とした赤ん坊は、元気な男の子だった。
両親から名前を貰い、銀四郎と命名された。


高校3年生の夏休みはあっと言う間に終わる。
仲間との楽しい時間に夢中になり、受験勉強の夏期講習に明け暮れ、もしくは情熱を傾けた部活動の最後を迎える。その全てを青春と呼べるだろう。
同世代とは一風変わって、土方と銀時は夏休みの間に親としてのデビューを果たしていた。


夏休みが明けた9月、約1ヶ月半ぶりに集まったクラスメイトたちは互いの夏休みの話で盛り上がっていた。しかし、少し遅れて登校してきた二人が教室に入ると、誰もが目を剥いて驚いた。
休み前と変わらない表情の土方と銀時、しかし二人の間には、学校には似合わない一台のベビーカー。
やけに大きく立派なスポーツタイプのベビーカーは、坂本から貰ったものだった。

当然その中には、小さな布団に埋もれるように包まれた銀四郎が、すやすやと眠っている。
それまでワイワイと賑わっていたクラスが、しんと静まり返っていた。
戸惑いを隠せないクラスの中、銀時がにこやかに「よぉ」と軽く挨拶をする。


生後約一ヶ月の銀四郎は、寝ているばかり。
学校中の生徒たちが代わる代わる、物珍しそうに銀四郎を見に来る。
まだ首もすわっていない赤ん坊を抱き上げる勇気は誰もないらしく、愛らしい寝顔を覗き込むだけだった。
その寝顔には見る者の目尻を下げる魔法のような力がある。
小さな小さな銀四郎は、あっという間に学校中のアイドルになった。彼はどこにいても常に話題の中心だ。


産後の銀時は以前にも増して元気一杯だった。体力は使い果たしていたが、若いので回復も早い。
何より腹部にあった約3キロが無くなったおかげで、かなり身体が軽いらしい。
慣れない育児に苦労しながらも、活発に動いて楽しんでいる風である。


クラスにとっては受験シーズンの大事な時期に教室に赤ん坊がいるのは迷惑な話のはずだ。
しかし高校だけは卒業したいという銀時の要望を、クラスメイトは勿論、理事長のお登勢も快諾してくれた。
銀時の席を教室の一番後ろにし、授業の邪魔をしないという条件を銀時自らが定めた。
それからは銀四郎にミルクを与えたり、寝かしつけたりしながら、銀時は形ばかりだが授業に参加していた。
異様な教室の風景であったが、これも彼らの青春の一幕と言えよう。



10月11日・・・銀時が18歳の誕生日を迎えた翌朝のホームルームが始まる。
銀時は挙手して立ち上がり、いつもの気だるそうな雰囲気で発言した。


「俺、みんなに報告がありまーす。実は苗字変わりました。
 坂田銀時改め、土方銀時になりましたんで、えーっと・・・よろしく」


照れ隠しなのかわざと軽く言う銀時の様子はどことなく嬉しそうで、温かい祝福の拍手を受けた。
一方土方は、同時に銀時ファンの生徒から今にも吊るし上げられそうなほどの嫉妬の視線を受けた。

銀時の回りにはほんわかと温かな、土方の回りには暗黒色をした重い空気が流れていた。
まるで教室の温度が二分され、竜巻でも起こりそうな緊迫感があった。



気恥ずかしい報告を終え着席した銀時は、一息ついてから机に頬杖をついた。

横目で、誰もいない秋の校庭を窓越しに見る。白い日差しと黄色い落ち葉が寂し気な校庭を彩る。

校庭にも教室にも、銀時にとっての甘酸っぱい思い出が溢れている。

この高校の思い出の全てが今の銀時を作ってくれた。



高校卒業まで、あと約5ヶ月。
このクラスで土方と一緒に卒業したい。それまで一家3人で通学しよう。



銀時は教室の一番後ろから目を細め、声に出さずにそう囁いた。





おわり。



20090114




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