「ところで土方さん、いよいよ文化祭ですねィ」



秋の文化祭を明日に控えて、装飾の終わった校舎は、通常と全く違う雰囲気だ。

もう今日からでも祭りが始まっているかのように、学校中が賑やかに浮かれていた。

文化祭の準備をするのも、学生にとっては楽しいイベントの一環だ。
各クラス、部活動単位での出し物や展示が企画され、その完成にむけて一致団結する。

遅くまで学校残ってなんか作るのって楽しいよね、みたいにはしゃぐ奴もいるし、
文化祭をきっかけに親しくなって、おい気づいたらあの二人つき合ってるよ、みたいな展開もあったりする。

文化祭-----祭りとつくからには、老若男女、浮かれるのも無理はない。
だがしかし、だ。
こういうときだからこそ、校内の風紀を引き締める必要がある。

俺たち風紀委員は文化祭を楽しむなんてこた、毛の先ほど考えちゃいけねえ。
校内の安寧秩序のため、あえて我が身の楽しみは捨てる。
それこそが風紀委員魂ってもんよ。って俺今いいこと言ってるぜ。

見回りを強化し、学校内外の不貞の輩が事件を起こさないよう校舎内の隅々まで監視体制をひいている。
この時期は部活も無いので、俺と総悟はペアを組んで放課後の学校を歩き回る。
明日からの文化祭本番には、もっと要員を増やして徹底的に監視する予定だ。
風紀委員の配置などを考えるため、校舎内の様子の下見も兼ねている。


「土方さんの大好きな、銀時さんの事なんですけどねィ」

PSPの液晶を見つめたまま、俺の一歩後ろをノロノロと付いて来る総悟がサラリと言った。

「あぁ・・・ん?・・・なんだって?」

「だから、土方さんの大好きな銀時・・・」

「ちょっっっ・・・と、待て!その”大好きな”ってのは何だコラ!!」

「幼なじみなんでしょう、銀時さんと」

総悟がにっこりと天使のような笑顔をうかべて、やっとPSPから視線を上げる。
こいつの微笑は、俺をおちょくる気満々の時にしかみられない。

大好きな・・・友人として大好きという意味もあるだろう。
しかしこの場合、恋愛感情という意味であるのは明らかだ。この総悟の笑顔からして、間違いない。

晴々としていて、眩しいほどの清清しい笑顔。
誰もが心温まるような笑顔だが、俺の背筋がゾクっと逆立つ。

次に何を言い出す気なのか、恐ろしい。
・・・どうせロクなことじゃないだろう。

常に冷静でいることを心がけて、俺はわざとゆっくりと返事をする。

「確かに幼なじみだが、なんでそれを知ってるんだ」

「俺と銀時さんの共通の知り合いつったら、土方さんくらいですからねィ。そりゃいくらでも話題に上りますぜ」

「ああ、お前も新館校舎組だったな。それで俺のどんな話をしてやがるんだ」

「土方さんがバカで単細胞で変態で奥手で鈍いんだって話とか、しますねィ」

「何だそりゃ」

最初の「バカ」のあたりは、総悟の捏造だろう。
その他、「奥手」とは意外だ。コイバナの類だろうか。そんな話するか、普通?
しかしよく考えてみると、ミツバの事があった後だ。
・・・そういう話にもなるかも知れねえな。

銀時がミツバ本人と、弟の総悟に俺のことをどう言ったのかわからない。

どうせ「剣道一筋で今は女と付き合う気がない」と・・・
そんな言い訳で、断ったんじゃないかと予想している。
”他に付き合ってる女がいる”・・・そんな嘘をついても、総悟が身近にいる。
どうせ嘘はすぐにバレてしまう。

銀時は女に優しいからむやみにミツバを傷つけるような、キツイ断り方はしないだろう。
しかもこれから、落とそうとする女だ。
むしろ俺を最悪な男だと悪口を言うかもしれない。それでも構わない。
俺がどんな酷い言われ方をしたところで、ミツバには会うこともないから痛くもかゆくもない。

そのぶん、総悟から余計に憎まれることになるが。

学業、もしくは剣道一筋・・・か。そんなところが妥当だろう。
確かに嘘ではない。熱心に取り組んでいる。
だとすれば、「恋愛に奥手」だとか「鈍い」のだとか言われても、それほどおかしいことではない。

総悟は銀時の生優しいフォロ−を、真に受けているのだろう。
その上で、嫌味を言ってやがるのかも知れない。

俺への嫌がらせに、情熱を傾けているような奴だ。

「俺、けっこう銀時さんとは仲がいいんでねィ。面白いお方ですよね」

総悟が銀時に懐いているのは知っている。
その銀時が、ミツバを好きになったという事は、総悟の耳には入っていないのだろうか。

・・・言うわけがないか。
知ったら銀時の事も、俺と同様に嫌うのだろうか。
それとも銀時になら・・・最愛のミツバをくれてやってもいいと思うのだろうか。

「だから、銀時がどうしたんだ」

「あーそうそう、明日の文化祭に、銀時さんが思い切ったコトをしますんでね、楽しみですねって話でさァ」

「思い切ったこと・・・って何をするんだ?」

「アレご存知ないんですか?幼馴染なのに?・・・アレアレ、もしかして最近ご無沙汰ですかィ」

「ご無沙汰って、いかがわしい言い方すんな!確かに忙しくて最近会ってねーけど」

「いかがわしい捕らえ方したのはアンタでしょ、そんなに銀時さんの事が大好きなんですかィ」

「だーかーらー、テメーさっきから好きだとか、何だってんだ!!」


総悟がにやにやと気持ち悪く笑いながら、俺の顔を覗き込む。

視線を合わせたくない。

何もかもを見透かされているようだ。

この野郎は、一体俺に何を言わせたいんだ。

だんだんと、腹が立ってくる。


「いえね、近藤さんから、土方さんが幼なじみに恋をしてマイっちまってるって、そう聞いたもんでねィ」

「・・・バカ言うな。あいつは男だろーが」

「ワケありで100%叶わない恋なんだ、とも聞きましたぜ」

「・・・だから、んなワケねえって」

「そのワケってのは銀時さんが・・・」

「総悟!もう、止めねえか!!」

ついカッとなって、怒鳴ってしまった。
これ以上その話をする気なら、多分手が出ていただろう。

総悟は「あらら」とふざけて笑う。
反省する様子はなかったが、いちおう静かになった。

単に八つ当たりかもしれないが、銀時の話を聞かされるのは苦痛だ。

胸の中に閉じ込めてある秘密を、傷を、いたずらにほじくり返されているようで堪らない。


聞きたくない、思い出したくもない。

わけもわからず、ハラの底から苛々とした感情が沸きあがる。

冷静でなんか、いられなかった。


・・・それにしても、今の怒り方はマズかったな。

俺はたった今の自分の言動を、激しく後悔した。
本当に銀時を好きなのだと、総悟の野郎には完全にバレてしまっただろう。
自ら宣言してしまったようなものだ。

シスコン総悟にとって、この世で一番大切な姉、ミツバ。
形はどうあれその姉の心を奪った挙句、俺は気持ちに応えてやれなかった。
総悟にしてみたら、この俺はどんなに忌々しい存在だろう。

その俺の弱点を、たまたま近藤さんから聞いたんだろうな。
人のいい近藤さんのことだ。
きっと俺のために、総悟にも「トシに協力してやってくれ」と頼んでくれたんだ。
まったく余計な事を・・・ありがた迷惑だぜ。
・・・いや、近藤さんは悪くねえ。
相手の名前や、俺の事情を知っているわけではない。
俺の落ち込み方が酷かったから、近藤さんなりに心配してくれているのが伝わってくる。
近藤さんのおかげで、気持ちの整理がついて立ち直れたんだ。

悪いのは総悟の勘の良さと、俺へのおかしな逆恨みだ。
総悟にとっちゃ、俺の弱点が分かってさぞオイシイ気分だろうな。
今後もこのネタで、おちょくりイジる気だろう・・・
俺の方はいいとしても、銀時にまで余計なことを吹き込まなければいいのだが。


好きだからと言って、手に入れるつもりはない。

頃合を見て、「好きだった」とちゃんと伝える覚悟でいる。

俺たちの関係を掻き回さないでくれ。

そっとしておいてくれ。

大切な事だからこそ、ちゃんと俺のタイミングで、銀時へ伝えたいんだ。


だから、それまで、余計なことはしてくれるなよ・・・いいな総悟!


俺がキツイ視線で凄み総悟を睨みつけると、にやにやと笑っている。
この顔、まるで何もかもを知り尽くしているようだ。


人のことをバカにしてやがる。

ホンットに、気にくわねえ野郎だ。





先が思いやられて、つい、深いため息をついた。






翌日、いよいよ文化祭が始まった。


正門から校庭、校舎内まで賑やかになり、まさにお祭り騒ぎだ。
生徒はもちろん父兄や他校の生徒たち、高校のOBや受験の下見に来た中学生など様々な人たちで溢れ返る。

校舎内に生徒と教員以外が立ち入れるのは、多分この文化祭くらいだ。
迎える生徒側も、ホスト役としてテンションが上がっている。

出店からはいい香りがしたり、教室からは出し物の歌声や笑い声、音楽などが響く。
誰もがみんな、楽しそうだ。
出だしは何ごともなく、順調だ。

そんな中、風紀委員の腕章を付けた俺と総悟は、校舎内を見回る。
予定どおり人員配置も完璧、監視体制は万全だ。
風紀委員の名誉にかけて、絶対に事件など起こさせはしない。

俺のプライドがかかっている。

「誰もが浮かれるこんな時こそ、俺たち風紀委員がしっかりしねえとな」

「そうですねィ、あーそーそー、銀時さんが綿菓子とチョコバナナ買ってきてくれって言ってましたけど」

「知るか、テメーで買えや」

俺が叱りつけている間に、すでに総悟は出店で綿菓子を買い求めていた。さらに、

「土方さん、チョコバナナってドコで売ってますかねィ?」

・・・と、聞きながらパンフレットをめくって、出店を探している。

俺は大きくため息をついた。
こいつに風紀委員の使命感はないのだろうか・・・・・・ないんだろうな・・・



結局、銀時の希望の品を買いそろえた総悟が、珍しく機敏に先を歩く。

「はやく渡さねえと、チョコバナナのチョコが溶けちまいまさァ」

もはや風紀委員巡回コースでも何でもなく、ただ新館校舎にある銀時の教室に向っていた。
総悟にだけ勝手をさせるわけにもいかない。
どこで誰が見ているか分からないのだ。風紀委員が遊んでいるとナメられたら困るだろ。

仕方なく、俺も総悟の後をついて行く。



駅前のファーストフードでミツバの話をされてから、銀時には会っていない。
あの日から、長い夏休みを挟んでもう2ヶ月が過ぎている。

銀時とミツバは、どうなったのだろう。

進展があったのだろうか。

気にはなるが、銀時にもおかしな遠慮をしてしまい話がしにくい。
どうやって、何の、会話をしたらいいのだろう・・・まだ会いたくないと思ってしまう。


新館校舎に入るのも久しぶりだ。

こちらも廊下の壁に色紙やらポスターやらが貼られ、手作りのオブジェがところどころ廊下に飾られている。
安っぽくも学生らしく華やかに装飾されて、いかにも文化祭らしい。
やはりここも賑やかで人手があり、普段の校舎とはまるで見違えていた。

「銀時さんのクラスはオバケ屋敷なんですよ、出し物」

「オバケ・・・ってアイツそういうのは苦手だったと思うが」

「・・・ええ、まあとある事情で、銀時さんはクラスの出し物とは別のことをするんです」

「別のことって、何だ」

「それは、見てのお楽しみでさァ」

銀時のクラスの教室の前は、同年代から年下の若い奴らが列を作って並んでいた。
この学校の生徒もいるが、他の学校の生徒や中学生らしい奴らも多い。
どいつもこいつも、並びながらも既にテンションが高くはしゃいでいる。

教室の窓やドアには一面に黒い幕が垂らされ、中は見えないように隠されている。
中はダンボールで仕切った通路が出来ているらしい。
前のドアが入り口で、後ろが出口の一方通行になっている。
教室はそれほど広くないので、袋小路が数箇所あるくらいで、通路の選択肢までは作れない。
客はグループ単位で、その通路を歩かされる。
そこをオバケに変装したクラスの奴らが脅かすという、まァよくある出し物だ。

オバケ役がワッと脅かす声と、キャーという悲鳴が時々聞こえるが、大概が笑い声だ。
どんな格好をしたオバケか知らないが、怖がらせるより、笑わせているんだろう。

賑やかな出し物なので、より若い年齢層の客が集まってきて、かなりの人気を博していた。
銀時のクラスの奴らも、何かと行ったり来たりして忙しそうだ。
ここだけ、やたらと活気がある。大繁盛で良かったじゃねえか。

俺は教室の様子を見ながら、廊下の少し離れた場所で待っていた。
総悟だけが、教室の前に歩いて行く。

チョコバナナと綿菓子を渡したら、すぐに見回りに戻るつもりだ。
ここでゆっくりする時間はない・・・全くないわけではないが、時間を裂くわけにもいかない。

銀時にはどうにも会う気にならないので、賑わう廊下の片隅で壁にもたれ腕を組んで用事が終わるのを待つ。


人ごみに紛れているので、きっと銀時は俺の存在には気づかないだろう。

それでいい。

なんとなく、銀時と話すことに、まだ戸惑いがある。


総悟が教室の裏方から銀時を呼び出す。

「銀時さーん、ご要望の綿菓子とチョコバナナ買ってきやしたぜー」

「おー、今行くー」

遠くで総悟の声と、それに続いて懐かしい銀時の声。
ざわざわとうるさい周囲で、あいつの声だけを拾うように鮮明に聞こえた。

教室の後ろ、暗幕の内側から見慣れた銀髪が見える。
行き交う人たちの合間合間に、チラチラと見え隠れするその髪。


目の前には人が一杯いるのに、遠くのその髪が俺の視界に飛び込んできた。

そうなると、もうその髪しか目に入らない。

俺の視線が、そこに縫い付けられてしまったかのように動かない。



------------どうしても視線が、外せない。


久しぶりにみたその色に、俺の心臓がドキンと跳ねる。


鼓動が大きくなって、賑やかだった周囲の物音も自分の心臓の音で聞こえなくなった。
まるでここには、俺と銀時しかいなくなったかのように、他のものの存在が一切見えなくなる。


だめだ、落ち着け、意識すんな。

視線は相変わらず、遠い銀時の髪に貼りついたまま。

一気に体温があがる。顔や頭が、カっと熱くなる。

額や背中、手のひらがじっとりと汗をかいてくるのが分かった。

・・・何を緊張しているんだ。




俺が1人でうろたえているうちに、暗幕がめくられてセーラー服を着た女が出てくる。
・・・オバケ役の奴・・・じゃないだろうから、オバケ屋敷の客か。

はやく気持ちを落ちつかせるべく、意識的に何も考えないようにしていた。
ボンヤリと、何気なくその風景を眺めている。

出てきた女は1人だけで、そのまま総悟と話している。
銀時に似て、髪の毛が白い。地毛だろうか。
真っ白でふわふわの髪の毛は長く、左右両耳それそれの上で高く結んでしっぽのように軽くゆらめく。

紺色の襟元とリボン結びをしたスカーフ、それと半袖の白いセーラー服から伸びる腕もやはり色が白い。
膝丈のプリーツスカートからも細くて白い足が見える。

うちの学校の制服は女子も男子もブレザーだ。
セーラー服は中学の時以来、久しぶりに見た。
さわやかでいいもんだな、などと懐かしく思って、ついその女を観察してしまう。

それにしても、誰なんだ。

・・・総悟の知り合いだろうか。

顔を見たくても、耳の上で結んだ髪の毛が彼女の横顔を隠してしまう。
胸はやたらとでかいようだ。セーラー服の胸元がパンパンに膨れ上がっている。

スタイルも良く、さらに肌の白さや手足の細さが周囲の目を引く。
はやく顔が見てみたいもんだ。
きっと可愛い女子なんじゃないか、多少の期待を抱きつつ眺めていた。

つい身体のパーツばかり見ていたが、何気なく全身を見てみる。

そういえば、総悟よりも背が高い。
そう気付くと、なんだか身体が大きいのが気になる。
肩幅も広いし、腰も太くガッチリとしている。

・・・あれ、なんかおかしくねえか・・・?

総悟は、手に持っていたチョコバナナを渡し、その女がそれを食いはじめた。

それは銀時のために買ってきたんじゃないのか。



なんで、その女が食ってんだ。




まさか・・・



・・・まさかこの女・・・



目の前の状況と俺の思考が、だんだんと重なり一致していく。


何気なく眺めていた風景が途端に鮮明になり、やっと真実がみえた。





---------この女・・・・・・銀時か!!





そう気付いた瞬間、サっと血の気が引いた。
実際クラリとよろめきながらも何とか踏みとどまったのだが、眩暈を起こして倒れるかと思ったほどだ。

目の前がクラクラ揺れ、冷や汗が止まらない。
ついさっきまで銀時の事を思って熱くなっていた身体が、今度は鳥肌が立つほどに冷える。

自分の感情が理解できない。

この状況も理解できない。

とにかくわけがわからず、俺の視界がぐるぐると回る。


何やってるんだテメーは!!


喉元までそう怒鳴り声が沸きあがってきているのに、呆気にとられて声が出ない。

そうしている間にセーラー服をまじまじと観察していた総悟が、スカートを指差して何かを喋っている。
セーラー服の女・・・銀時も何か返事をしながら、なんとスカートをめくって中を見せる。
和やかに談笑しながら、スカートめくって・・・!!



どういう事だ、一体何してやがる!!



遠慮を知らずストレートな発言をする総悟の事だ。
きっと・・・”スカートの中どうなっているんですか”とでも言ったのだろう。

銀時も銀時だ。
調子に乗って恥じらいもなく、その後もスカートをヒラヒラさせている。



分かっている。

総悟のあの行動は、絶対に俺への当て付けだ。

嫌がらせ以外のなにものでもない。



どういう理由か知らないが、銀時のしている女装をわざわざ俺に見せに来たのも・・・

俺が見ていると知りながら、スカートの中を覗くような真似をしてやがるのも・・・

挙句、お調子モノの銀時がこういうノリが好きで、エスカレートしてんのも・・・



何もかもが、総悟の計算どおり。


絶対に俺が嫌がるのを分かっての仕業だ。



総悟の野郎・・・ふざけんじゃねえぞ・・・

いちいち、俺を怒らせるようなことをしやがって・・・

銀時も銀時だ。

恥かしい真似しやがって・・・調子のってんじゃねえぞ!



遠くでこの光景をただひたすら呆然と眺め立ち尽くしていた俺だったが、


・・・ついにブチンと堪忍袋の尾が切れた。


頭の中で、ちゃんとキレる音が響いたのだ。こんな事ははじめてだ。
その音を合図にして、俺の身体が勝手に動く。

両足を強く廊下に押し付けるように踏ん張り、拳を力いっぱい握り、すううっと大きく息を吸った。
ギュっと固く瞳を閉じる。

胸の中で、怒りが増大する。

何に対してこんなに怒っているのか、自分でも把握できない。
総悟か、銀時か、この世界まるごと全てか。

もう冷静ではいられない。
とにかくムカっ腹が立って抑えがきかない。

眉間とこめかみに力が入り、握った拳がぶるぶると震える。

ゆっくりと瞼を上げる。

目を鋭く細めて、遠くの総悟と銀時を睨みつけた。


ついさっきは全く出なかった声を、腹の底から絞り出す。




「テメェらァァ、一体何してやがるッ!!!!」




突然大声を張り上げた俺に周囲の奴らが驚いて、あたりが一瞬で静かになる。


その場にいた奴全員が、一斉に俺の方を振り返る。


俺の側にいた奴はささっと逃げて距離をあける。
人間でごった返していた廊下。

しかし今は、壁を背にした俺の前だけぽっかりと半円形に人がいなくなり、不自然な空間ができていた。




やべえ・・・やっちまった・・・




俺も思わず固まってしまう。
怒りで頭に血が登っていたが、凍りついた空気に今度は逆に血の気がひいた。

一気に正気に戻る。

そうだった。ここは人のたくさんいる学校の廊下だった。
俺の視界には、銀時と総悟しかいなかったのですっかり忘れていた。

自分の立場と状況が、分かってくる。
いっそこのまま、正気を失って怒り狂っていられた方が、俺にとっちゃ良かったかもしれない。
今こんな時に、しっかり冷静になっちまうなんて・・・。

立場がない。


周囲の視線が、突き刺さる。


視線が痛い。

ヤバイ。

もう取り返しが付かない。

・・・どうしたらいいんだ・・・!


顔を上げると、人ごみの向こうで総悟がにやにやと笑っていた。
それはそれは、嬉しそうだ。

作戦成功、ざまあみやがれィ!
・・・そう顔に書いてあるのが、ここからでもハッキリと見える。



あンの野郎!!


人のこと炊きつけやがって!!


どうしてくれんだ、この状況ォォォーーーーーーーーーー!!!!




「あぁーもー!すいませんね、すいませーん!」




痛いほど張り詰めた沈黙を破ったのは、その総悟の隣にいたセーラー服の・・・銀時だった。

動かない人々の塊をかきわけて、俺の元へやってくる。

遠くにいた銀時が目の前に現れた。瞬間、見惚れてドキっとした。

セーラー服にも驚いたが、側で見ると化粧もしている。
その化粧も、例えばお登勢のような濃くキツイものではない。
いつもより長くなった睫毛や、濡れるように何かを塗られた唇でやっと化粧に気づくほど、自然だ。

化粧をしている、という前提でよく見ると確かに肌や頬のキメが整い、きれいな色をしていた。
何故か・・・いい香りがする・・・。

銀時の意外な美しさに、驚いてしまう。

こんな出来栄えは、反則だろう・・・!?

高鳴る鼓動は加速する一方だ。一歩も動いていないのに、息が切れる。


銀時が俺の横に並んで、周囲を見渡す。
視線の全てが、今度は銀時に集中していた。

固まったまま動けない俺の肩に腕を回した銀時が、俺をグイっと引き寄せる。


「いやーコイツが驚かせてすいませーん、お騒がせしましたぁー」


俺の肩を抱いた腕とは反対の方で手を振り、周囲の人々へにこにこと愛想笑いを振りまく。
大した事件では無いのだと、一件落着したような雰囲気を作リ出していた。

ようやく、ざわざわと会話が戻ってきて、もとの賑やかさになる。

一瞬騒ぎを起こしてしまった俺と、そのフォローをした銀時の存在がやっと忘れられた。
みんなが、また俺たちを無視して、それぞれに楽しみ始める。

・・・良かった・・・銀時のおかげで、丸く収まった・・・。

ほっとした俺の肩をさらに強く引き寄せ、銀時は俺の耳元で「バカ」と囁いた。

驚いて銀時の方を振り返ると、鼻と鼻がぶつかりそうになるくらい側に顔があった。
ぎくりと身体がこわばる。
銀時がいつもの表情で、ニヤリと笑う。

「・・・ッ、悪ィ」

「とりあえず中庭に出よっか」

銀時が俺の肩に手をかけたまま愛想笑いで「ごめんね、ここ通してー」と再び人の流れを割って歩く。

その間に「え、男!?」「マジで?」「すげェ」「カワイー」「面白ェ」など男女から声がかかる。

銀時はその声に反応して振り返り「あ、どーもォ」と笑顔で手を振り、ウインクをする。

注目されるとノリやすくなる銀時は、騒がれることが嬉しそうだった。
またスカートをヒラヒラさせてサービスしては、笑いや歓声に包まれて満足気に微笑む。

そんな楽しげな様子を見ると、真剣に腹を立てた自分が馬鹿馬鹿しくなる。
緊張の糸も切れ、俺は力が抜けてしまった。

俺と銀時は寄り道しながら、教室の前にいる総悟の元にたどり着く。

「お疲れ様でした、銀時さん」

総悟が嫌味ったらしく銀時に声をかける。
俺の事を横目でチラっと見てにやにやと笑っている。

声も弾んで、それはもうご機嫌のようだ。


元はと言えばテメーが銀時のスカートの中を覗いたりするからだろうが!


俺は目でそう言って、全身全霊を込め思いっきりキツく、総悟を睨みつけた。
総悟はわざと俺の方を見ない。口笛でも吹きそうに楽しんでいやがる。


マジで、むかつく野郎だ・・・!

頼むから一発殴らせてくれ!痛くしないから!





狭い廊下を3人で歩いて抜け、小さな中庭に出る。


今日は雲ひとつない晴天だ。

清清しい秋の空は、高くどこまでも広がり、穏やかな日の光が静かな中庭を包み込む。
ここには出店も何もない。
用のない部外者が入ることはなく、賑やかな学校の中で唯一ほっとできる場所だ。

中庭の白いベンチに座って、銀時は綿菓子の袋を開ける。

「さっき、トシは何を怒ってたんだ?」

綿菓子を鷲掴みにしてかぶりつくが、すぐに溶けてしまう。
銀時は食べにくそうに、べたつく指をぺろぺろと舐め取る。

口の周りも綿菓子の砂糖で汚れてしまう。
せっかくの口紅・・・リップグロスとかいうのかよく分からないが、化粧が台無しだ。

「いや、その・・・銀時、テメーがそんなバカな格好してやがるから!」

つい自然に、いつもどおりの強気の口調で答えてしまう。
そしてミツバの一件を思い出してハッとした。

あのことがあったから、今まで銀時と会話するのを避けていたのに。
俺ばかり遠慮していたのか、銀時は昔のままの気さくな雰囲気だ。

へらへらとふざけた調子も、相変わらず。
ファーストフード店で呆然自失になっていた銀時とは、まるで別人のようだ。

おかげで、俺も銀時と話しやすくなった。
自然と昔のような、気のおけない関係に戻ったような気さえする。


少し嬉しくなり、気が大きくなった。

良かった。

銀時ともいつもどおりに、普通に会話が出来そうだ。


「結構可愛くね?俺さ、鏡で自分見た時、グっとキたよ」

「いやいや、そこらの女子よりカワイーですよ、ねっ、土方さん」

総悟がにやにやと俺を見る。
突然そのような感想を振られて、俺は言葉を詰まらせてしまった。

今日の総悟は水を得た魚のようにイキイキとしてやがるな・・・

俺を困らせるのがそんなに楽しいのか!

カワイーですよね、と言われて「ああそうだな」と返事が出来るかってんだ!

それが分かっているからこそ、総悟はわざと俺に振るんだろうが・・・!


「可愛くない、気持ち悪ィ。そんな格好で出歩くんなら風紀委員としてしょっ引くぞ?」


ついさっき、初めて間近で見た時には、正直なところあまりに可愛くなっていて驚いた。

それこそガキの頃から銀時を見てきた。
色々な姿、色々な顔を見て知っていたが、さすがに化粧を施した姿は初めて見た。
しかも、それがあまりにも似合ってしまうことなど・・・知らなかった。

新鮮で予想外、だ。

女装や化粧などしなくても、キレイな顔をしているのは分かっていた。
それが更に引き立っている。



これでは俺以外のあらゆる野郎どもに、銀時の魅力を教えてしまうようなもんじゃねえか!

誰かが「実は可愛いんだな」とか思ったりしたらどうする!

どこの馬の骨が分からない奴に、好きになられたりしたら困るだろ!

更に言えば、変態野郎に襲われたり・・・そんな事件の引き金になってしまいかねない。



とにかく、ダメだ!

可愛いから、ダメだ!

こんな格好を、人前に晒すなんてもっての他だ!!


嫉妬深くて心配性な俺の性分が、余計な想像を掻きたてる。
知らず知らずのうちに、ふるふると否定するように頭を振り、大きく、深いため息をついてしまった。

「ひでぇな、そこまで言うか?ほれほれ、胸もタオルで作ったし、なんとブラもしてんだぜ、すげくね」

銀時が自分の胸を両手で片方づつ鷲掴みにして揉んでみせる。
不自然なほどに胸がでかいのは、銀時本人の趣味だろう。
セーラー服の胸元が、はちきれんばかりに膨らんでいる。

ちょっと・・・でかすぎやしないか。
ブラをしているとは言え形も微妙に崩れているし、なんだか固そうだし・・・。

しかし不自然な方がいい。
どうせなら、顔だってもっとブサイクな化粧にすればいいんだ。

自然に可愛いなんて、反則だ。
それで人前に出るなんてこた、俺は絶対に許さねえぞ。

「おっと、作り物とはいえ刺激的ですねィ、銀時さん」

総悟がノッてみせると、お調子者の銀時は気を良くし、さらに”刺激的”なことをしようと試みる。
自分の胸を揉んでいた片手で、今度はフトモモのあたりをまさぐるように撫でまわす。

「パンツもセクシーな見せパンなんだぜ!さっき総一郎君には見せたけど、トシも見たいだろ〜?」

ベンチに座ったまま、片足を前にピンと伸ばす。
スカートを端から抑え手のひらでゆっくり、ゆっくりと焦らしながらめくり上げる。

わざと思わせぶりな仕草をしている。
もちろん、本人はこの仕草、まるっきり冗談のつもりだ。
にやにやと笑って俺の顔を見ている。俺がツッコミを入れるのを待っているようだ。

この湧き上がる色気は、銀時が自分で思う以上だろう。
特にこの俺にとっては、本当に威力がある。


身体がかあっと熱くなり、視線は銀時のめくられるスカートに釘付けになってしまう。

思わず、生唾を飲む。

スカートの中身になんざ、全く興味はない。どうせ男の身体だ。

銀時の裸なんか、ガキの頃から見飽きるほど見ている。

それでもスカートの中・・・というだけで興奮してしまうのは、男の性だ。


そんな甘っちょろい精神でどうする、冷静になれ十四郎ォォ!
銀時のこんな姿は見たくない!
いや、見たいとも思うが・・・こんな姿をさせちゃいけねえ!

本人が、自分の色気に無自覚なのが問題だ。
そして冗談なのに、マジに欲情してしまう自分にも、絶望した。

何を熱くなってんだ!
お前をそんな目で見たくないんだ、頼むからもうやめてくれ!

「ふ、ふざッッけんな!!見たいわけねーだろ!!気持ち悪ィから、二度とそんな事するな!!」

俺がきつく制止すると、銀時はつまらなそうに口を尖らせた。
それでも、目が楽しげに俺をからかっている。

「なんだよ、トシはつまんねえなあ。坂本なんて大喜びで、お触りさせたら金払ったぞ」

「触らせたのか!!しかも金取って!?」

「ああ、坂本さんはお金持ちですからねィ」

「お触り3分5000円ねー、ハイまいどっ」

そう言いながら営業スマイルの銀時が、俺の目の前に手のひらを差し出す。
俺はその手をパチンと叩き落す。

「たっけ!どんだけぼったくる気だコラ!!」

「坂本はちゃんと3万払ったぜ」

「オイどんだけ触らせた!!てゆーかその坂本って奴、バカだろ?!頭カラだろ!!!」



銀時の女装を止めさせたくて、俺は説教を続けた。
しかし銀時はまるで聞かず、女子のようにミラーを見て満足そうにしていた。

綿菓子を食って取れてしまったリップグロスを、熱心に塗り直している。
柔らかそうな唇を軽く尖らせ形を整えたり、唇の上下を挟んでリップを馴染ませる仕草。


まるで本当の女みたいだ。


当たり前だが、こんな銀時の姿は初めてだ。見てはいけないもののような気がする。



何故か・・・やけに緊張する。

ドキンドキンと心臓が激しく鳴っている。

可愛い、似合うなどと思いたくもない。こんな姿は異常なんだからな。

納得しちゃいけねえ、喜んじゃいけねえんだ。

けれど、どうしても目が離せない。もっと見つめたい。


本当ならこんな姿をキモチワルイと笑い飛ばすか、ドン引きする場面だろう。

それなのに俺は真剣に胸を高鳴らせて、緊張している。

いや、緊張ではなく・・・興奮しているのかもしれない。



興奮?


こんな姿にか?


こんな奴を相手に?



認めたくない。




また・・・こいつを欲しいと思ってしまったなどと・・・





異常なのは、他の誰でもなくこの俺だ。

もう脈は無いのに、何を期待している?




「銀時さん、キレイな化粧してますねィ」

総悟は銀時のことを誉めちぎってばかりいる。

全ては俺をけしかけるため。
銀時もわざとらしいお世辞にご満悦で、どんどん調子に乗ってしまう。

それこそ総悟の思うツボだ。

「クラスの女子が化粧してくれたんだぜ!流行りのナチュラルメークだって、上手いよな〜。
それにしても顔とか頭とか、女子に触られるのって・・・なんか興奮するもんだよなっ」

総悟の狙いどおり、調子に乗った銀時がにっこりすまして微笑む。

ついでに、総悟や俺にウインクをしてみせる。

また俺の胸が高鳴る。
頼むからもう、からかわないでくれ!

「すげー美人ですぜィ、ねっ、土方さん」

「いちいち、俺にふるな」

「・・・照れてまさァ」

「トシちゃんカーワーウィーイー」

「バカかお前らァァァ!!!いい加減にしやがれ!!!銀時はセーラー服を脱げ!!!!」

俺が怒りを爆発させると、銀時と総悟が二人が同じタイミングで吹き出す。

真剣に怒っているのは俺ばかりだ。

二人とも俺を指さして、腹を抱え涙を流さんばかりに大笑いしやがる。

「脱げって、それこそセクハラ発言だぜ、トーシー」

銀時が「イヤン」とふざけ、自分を抱くような仕草をして、また笑う。

総悟はそれにノって「ダメですぜ〜土方さーん」と言い、うりうりと俺を小突いて冷やかす。



・・・なんだ、オモチャか?

俺はこいつらにオモチャにされてんのか?



苛々として、握り締めた拳がわなわなと震える。

もういっそ銀時も総悟もぶん殴ってやろうか、とマジで思ったその時、

「何をしている、銀時」

そう声をかけられた。

振り返ると、そこにはやはりセーラー服の女子。
銀時とは違って、セーラー服の上に白いベストを着ている。
白と紺のコントラストが、キレイに映える。

長い黒髪を風になびかせている様子が、サマになっていて美しい。
両腕をかたく組んで、堂々と仁王立ちしている。
短いスカートから細い太ももがスラリと伸びている。

誰だ、この美女は・・・思わず眉をひそめる。
心のどこかで「まさか・・・」という不安がよぎる。

その不安は次の銀時の一言で、あっさりと現実のものになってしまった。

「よお、ヅラ。なかなか似合うじゃん、セーラー服」

ヅラというのは、銀時の友人の桂のあだ名だ。
まさか、真面目で学級委員をしている桂が・・・女装・・・だと?

「ヅラじゃない、ヅラ子だ。うむ、お前もなかなかイケているぞ、銀時」

姿形はまるで女子なのに、その顔から出る声は低くぶっきらぼうで、やはり桂そのものだ。
しかも、なかなか、満足している様子だ。

マジでか?

どうして?

何がしたいんだ?

どうしても違和感が拭えない。
俺は最初に銀時の女装を見た時のように、呆然とその姿を見ていた。

「ヅラ、お前スカート短いなー」

「ヅラじゃない、ヅラ子だ。このぐらいが良いのだと言われたが・・・坂本に」

「やっぱ坂本かよ。まあでも、確かに膝丈じゃ、つまんねーよなァ」

そう言って銀時は自分のスカートを腰のあたりからくるくると巻き上げる。
膝丈のスカートが途端に膝上30センチまで上がる。

「おいおい、上げすぎだろ!!」

俺が慌てて制止するが、銀時は一向に言う事をきかない。

むしろ止められると、嬉しそうにニヤリと笑う。



俺がどんだけ心配してると思ってやがる!

そんなに俺をからかうのが楽しいか!

この、あまのじゃく野郎・・・!!



「こんぐらいのがいいっしょ。どうせ中は見せパンだし」

「銀時さんの足はキレイなんで、問題ないですぜィ」

「だろ〜?」

銀時と総悟が互いに頷き合う。
総悟がいちいち銀時を持ち上げるのに、嫌気がさした。


何だその気の合い方は・・・!!

男が足なんか出してどうするんだ!!

てゆーか、俺の目のやり場に困るっつーの!

隠しとけよ!!その足をしまっといてくれ!


俺は何と説教するべきか・・・言いたい事がありすぎて、口をぱくぱくさせていた。

その間に銀時は桂の方へ向かい、タオルを詰めた自分の胸をまた鷲掴みにした。
巨乳具合が、どうやらお気に入りらしい。
俺や総悟にしたように、同じく桂にも自慢を始める。

「俺の方が胸がでけーぞ!いいだろセクシーだろ!」

「胸などどうでもいい。女は尻だ。俺の方が尻がでかいぞ」

「オメッ古いんだよ、女の好みが!」

「安産型のどこが悪い!」

「何を産む気だ、テメーはァァァァ!!!!」

・・・という漫才のようなやりとりを、なんとも盛り上がらない気持ちで見ていた。


何だこいつらは、女装してどうする気なんだ?
クラスの出し物にも参加せず、二人っきりでセーラー服を着て何があるってんだ。

しかも気合入れて可愛くしやがって。
ああ、気持ち悪ィぜ。

不本意ながらも、自分の胸が高鳴っていることは・・・棚に上げて。


俺が二人の様子を怪訝そうに眺めて黙っていると、タイミングよく総悟が耳打ちしてきた。

「お二人は体育館のステージでやっているファンションショーに出るんでさァ」

「ファッションショー?ああ、被服研究部が毎年開催してる目玉のステージがあるが・・・こんなオカマが?」

「ショーは前半。後半には仮装一発芸大会になるんで、そこでお披露目ですぜィ」

俺たちがひそひそと話していると、桂との漫才が終わった銀時が話に割って入ってきた。

「人気投票で1位になったら賞品出るらしいんで、俺たちに投票ヨロシクね〜」

「任せといてくだせェ。風紀委員全員、銀時さんに投票させますぜ、ねっ、土方さん」

「いちいち俺にふるなっつーの。てか、誰がお前なんかに投票するかよ」

「冷てーなトシは、幼なじみじゃん?優勝したらパンツ見せてやっから、なっ!」

「良かったですねィ、土方さん」

「良かったな、土方とやら」

総悟のほかに、なんと桂までも声をかけてくる。
しかも、重々しく真面目な顔で頷きやがる。


俺をバカにしている自覚があるのかどうか・・・。

総悟はともかく、桂はそうじゃないだろう。





・・・って事は、マジに俺が銀時のパンツを見せてもらって、喜ぶとでも!?





この野郎、やっぱり噂どおりウザイ・・・イラっとくる。

勿論、総悟もイラっとする。

ついでに、銀時にもイラっときている。



今、俺の横に苛々ゲージがあるとしたら、順調にポイントが貯まってきている最中だ。


ゲージのバーがどんどん上に伸びている。


そんな映像が、目の前に見える。


これがアーケードの格闘ゲームなら、普段は使えないような、すげえ特殊必殺技が発動できそうだぜ・・・!



俺のこめかみに血管が浮かび、ピクピクと震える。

足のつま先から脳天までをブチ抜くかという勢いで、全身の血液が逆流する。





いい加減にしろよ、お前ら!!!!


よってたかって、バカにしやがって!!!!


俺が何したって言うんだ!!!!!






・・・固く固く拳を握りしめ、とりあえず俺は、全力で、こう叫んだ。






「ふざッけんじゃねエエェェェェェェェェエエ!!!!!」







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