期末試験のあと春休みが過ぎ、

-------------俺達は中学2年生になった。






クラス替えがあり、俺と銀時は違うクラスに分かれてしまった。

隣の教室なので2クラスの合同授業などは一緒だし、銀時が教科書を忘れた時に借りに来たが、
それ以外は日中に顔を合わせることもなくなった。



朝の待ち合わせも、俺が委員会の朝礼や部活の朝練があるので、いつ間にか無くなった。



少し前ならばそれでも何とも思わなかったのだろう。



しかし銀時が体調を崩して倒れた時以来、銀時から目を離しているのが不安だった。


様子見を兼ねて、意識的に会うようにはしていた。
ただ幼なじみとは言え、クラスも部活も友達も違ってしまうと共通の話題が殆どない。



廊下ですれ違う時に「よぉ」と声をかけたり、「明日の朝礼で持ち物検査するってよ」と情報を流してやったりする程度だ。



銀時の元気そうな姿を確認するのが俺の日課のようなものになった。






みんなが新しいクラスにも慣れたころ、銀時がクラスメートの女子と一緒にいる姿を見かけるようになった。


やけにベタベタとしているので、嫌な予感がした。
友達というには、親密すぎる。
小学生の頃、九兵衛と交際疑惑があったが、その時の比ではない。


すぐにでも呼び出して問いただしたかったが、あきらかに嫉妬しているのがバレるのを癪に思い黙っていた。


こんな状況なのに、つい意地を張ってしまう。



しかし数日後、放課後に銀時と昇降口で会ったので、一緒に帰ろうと声をかけた。

帰り道にあれこれと無駄話をしたあと、思い切っていつもベタベタしている女子のことを切り出した。


「ところで、お前最近・・・女とイチャイチャしてんじゃねえか」

「あっれ、知ってんの?そうなんだ、彼女できたんだぜ、いいだろ〜」

銀時がにやにやと笑う。
予想が当たり俺としては勿論、面白くない。

「ふうん・・・ま、別に羨ましくねーよ」

「アイツ中2のくせにすげースタイルいいんだぜ」

「スタイルで決めたのか?たらしだなぁ、お前」

「勿論顔も可愛いし、何より俺のことめちゃめちゃ愛してくれてんの!」

満面の笑みをうかべて嬉しそうな銀時に、俺はかなりショックを受けた。
無邪気に微笑みながら、彼女からのラブラブなメールを見せてきやがる。

見たくねーよ、そんなもん!!


俺がずっと秘めてきた銀時への想いが突然現れたクラスの女子なんかに負けてしまったと思うと、どうにもやりきれない。



いつかこうなるのは分かっていたことで、覚悟も出来ている、ハズだ。
銀時さえ幸せならいのだと、心底思っていた、ハズだ。



しかし実際に銀時の心が誰かのものになるなんて・・・やっぱ無理かも・・・耐えられそうにねえ。
銀時を祝福してやる気にはなれない。


でも銀時を責めることでもないし、その女を責めるわけにもいかない。



俺が悪いのだろうか。

俺はどうしたいんだ?


失恋確定、とは言え、最初から叶えるつもりもない気持ちなのだから問題ないだろう?



もともと、女に勝つつもりもない・・・はずなのに。
そういえば、小学校のある時もバレンタインにモテた事をすげえ喜んでいたよな。


あの時も嫉妬したっけ。


銀時が女を好きなのは当たり前だし、仕方がない。

でも、何故か、すげー苦しい。

俺が1人でぐちゃぐちゃと考え落ち込んでいる横で、可愛い彼女に舞い上がっている銀時はまだ自慢している。


「彼女はね、C組の猿飛さん・・・さっちゃんて呼べって言うんだけどね、あやめっていう可愛い名前が・・・」




女の名前など、俺の耳には入ってこない。




俺はすっかり、力が抜けてしまった。






翌日以降もその「彼女」と一緒にいた銀時だが、ある頃から女の姿をみかけなくなった。


もしかして別れたのか、などと想像すると嬉しくなる。
いやいや、銀時の不幸を喜んじゃいけねえだろ、矛盾してるな、俺は。

そう自分を戒めながらも、いてもたってもいられず銀時に声をかけてしまった。

「最近・・・彼女とやらと一緒にいねえみたいだけど、どうした?」

「あぁ、別れたよ」

特に落ち込んでいる様子もなく、表情すら変えずにさらりと答えてくる。

俺は期待通りの単語を聞けて、つい機嫌がよくなる。
今の銀時は誰のものでもない、というのに安心した。
彼女のノロケ話は聞きたくないが別れ話には興味が沸き、余計なことだと知りながら理由を聞いてみる。

「フン、どうせフラれたんだろ?早かったな」

「悪いけど俺がフったんだよ!だってさァ、エッチなことしようとするたにび縄を・・・」

とそう言ってから「や、まあアイツの名誉のために黙っとくわ」と苦笑いした。

「ふうん、よく分からねーけど・・・やったのか?」

「おいおい、野暮なこと聞くんじゃねーよ」

そう俺をたしなめつつも「聞きたい?」とにやにや笑いながら顔を覗き込んでくる。

完全に俺をバカにしてやがるな、このスケベ。
中学生のくせにエッチなことって・・・不謹慎なんだよ!!

そう思いつつ、俺はすっかり気持ちが緩んでしまっていた。

「べつに」とクールに一言だけ答えた・・・が、バンザイしたいような晴れ晴れした気持ちで一杯だ。


素直になれない自分が、なさけねえな。





「さっちゃん」と別れたあと、諦められない彼女は銀時の追っかけを始めた。
悪く言えばストーカーってやつだ。

ただ、銀時の後をつけたりする程度で、嫌がらせなどはしてこないらしい。

銀時は「うざいけど、ちょっと面白れえな」と言い、あまり深刻な問題とは思っていないようだ。
俺だったら、別れた女が後などつけてきたら、気持ち悪くてブン殴ってしまいそうだけどな。

銀時は不思議だ。






最初の「彼女」でビビった俺だが、銀時にはその後も次々に「彼女」が出来た。

しかしどれもあまり長く続かない。


いいなと思う女子がいたら、同級生はもちろん、上級生でも下級生でも「俺と付き合わない?」と言ってみるんだそうだ。
相手の反応は様々だが、嫌われてさえいなければ言ったもの勝ちらしい。
「いいけど」という返事がきたら儲けもんという、そんな程度だ。

成功率は大したことは無いが、数打ちゃ当たるんだろう。

それでしばらく恋人ごっこをするが、銀時が飽きるか、相手に銀時のだらしのなさを見切られるかして、
「やっぱり合わないや」という流れになって・・・終わる。
とにかく続かない。サイクルが早く、長くても一ヶ月だ。そんな恋愛は、付き合ったうちに入るんだろうか。


彼女が出来たんだ、と報告というか自慢をされても、どうせすぐに別れるのが目に見えている。
最初はいちいち驚いていたが次第に慣れてしまった。



銀時の恋愛には「好き」だという感情が抜けているように感じるのは、何故だろうか。



「お前は女なら誰でもいいのか?すぐ簡単に別れちまうが、好きだったんだろう」

そう素朴な疑問をぶつけたことがある。
それに対して、

「可愛い女子なら誰でもいい・・・だって可愛い子は性格もいいって相場が決まってんだ。だから付き合ってる間は好き、かな」

銀時から俺にはよく理解できない、こんなおかしな答えが返ってきた。


こんな奴相手で、よく修羅場にならないもんだと思う。
銀時いわく、軽いノリで始まる交際の分、終わるのも軽いノリでいいんだそうだ。
つまりこいつの恋愛って「ノリ」重視なのか?
本気じゃねえってことか。

フラフラして頼りない銀時相手に怒っても仕方がないと分かっているから、アッサリ終わるんだろ。
本人は気にもしていなが、きっと女子の間では酷い野郎だと言われているに違いない。





銀時の恋愛理論は、生真面目な俺には受け入れられない。
ただこんな銀時だからこそ、もし本気で誰かに入れ込んでしまったら・・・俺は相当ショックを受けるだろうな。



誰のものにも、ならないでいてほしい。
銀時はこのままでいてくれればいい。

ママゴトのような恋愛をしていてくれるうちは、安心だからだ。




誰にも本気になんて、ならないでいてくれ。

・・・きっと銀時は、この先もずっとこんな調子なのだと思っていた。
そうであってほしいと願っていた。





銀時が誰かの腕の中にいる姿なんか、見たくなかった。

見たくなかったのに・・・




それが現実になる日がくること・・・その時の、まるで足元が崩れていくような俺の衝撃。



この時の俺には想像もつかなかった。まだ甘かったんだ。




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